園山二美「あかい蠢動」 「早熟の天才」が暴き出す男と女

自分が捨てた男の部屋を訪ねた女の懺悔(ざんげ)の弁を一人芝居の舞台風に描いた巻頭作からして、胸ぐらを摑(つか)んで揺さぶるかのような熱演に圧倒される。かと思えば、自伝的作品(と思わせる)「宇宙のはじまり」では、不登校の女子中学生の葛藤と解放を繊細かつ清新に描く。その他の作品でも、男と女の虚々実々が詰まった情愛と性愛を生々しく暴き出す。悩み、悶(もだ)え、泣き、笑う、彼ら彼女らの姿は恥ずかしくて愛(いと)おしく、情けなくてカッコいい。
驚くべきは、これらが20~23歳の間に描かれたということだ。17歳でデビューした作者は2冊の単行本を残して活動休止。そこから選んだ6編に初収録作と描き下ろしを加えた四半世紀ぶりの新刊となる。「早熟の天才」なんて表現は軽々に使うべきではないが、そう言わざるをえない。構図やコマ割り、映画や演劇的なシーン構成の妙もさることながら、会話やモノローグの言葉の強さと鋭さにシビれる。
本書が出たからには当然、『あおい蠢動(しゅんどう)』も出るだろう。「あかい」が血潮の色とすれば、「あおい」は創作の初期衝動か。いや、巻末の描き下ろし「ふれあい50」を見れば、むしろ今の作者の成熟の境地を味わいたくなる。本格的な活動再開を期待したい。=朝日新聞2025年6月7日掲載