オタクごとに結果を求める必要はない!
――まずはお二人のオタクっぷりをお聞きましょう。
かん K-POPの男性13人グループ「セブンティーン(セブチ)」、なかでもジョシュアというメンバーが好きです。そして宝塚の男役、芹香斗亜(せりか・とあ)さん。ふたりとも中性的で、上品な佇まいの方なんですよ。あと後頭部の形がきれいで。 「赤ちゃんの時に頭転がしてもらったな」という感じがしまして好きです(笑)。
――いやー、男性の私にはまったく分かりません……ということでもありませんね。確かに後頭部がカッコいい人はいます。筆者自身のオタク領域であるサッカーからふたり、後頭部がカッコいい人をオススメしましょう。中田英寿とティエリ・アンリ(フランス)です。
かん (スマホで調べながら)たしかにー。この感じです! でもアンリはちょっと反則っぽいかなー。ヨーロッパまで行っちゃうと……。
――もぐもぐさんは?
もぐもぐ 私はもともと宝塚(歌劇団)で娘役だった、愛希(まなき)れいかさんが好きです。月組のトップの娘役を結構長い期間やっていらしたんです。 愛希れいかさんは去年の秋に退団して、今、(芸能事務所の)アミューズにいるんですけど、ミュージカル女優として活動する準備をされていて。今年の夏に宝塚を辞めてから初めて出る演目があるので、今はそれに向けてお金を貯めています。ジャニーズだったらSexy Zoneが好きで。ツアーがあれば、行ったりして。国内旅行はライブに合わせてします。
――お金はどういうふうに使うんですか?
もぐもぐ 舞台はチケットが激戦になりがちなので、抽選にたくさん申し込むんです。高いものだと1枚1万5000円近くするので、運よくたくさんあたると、数十万円単位でお金が必要になる!
そのあと友達を誘って“返金”してもらうので最終的にはそこまで多額にはならないのですが、一時的な出費がありますね。
あと、遠征すると交通費は当然かかります。宿泊して観光もすると、最終的には全部込で5万くらいは使ってるかな。
かん 私はセブチのトレーディングカードがめっちゃ欲しくって、全部集めようと、一個500円のパックを数万円分買ったりしてましたね。「浪費」じゃないんです。「満足度が高い買い物」です。ただ、袋を開けるのは大変でしたけどね。「私は業者か」みたいになって。集めてみて思ったのは、私はジョシュアのカードが揃えばフルコンプしなくても満足できるんだ、ということ。他のカードは、友だちに無料でお譲りしたりしました。プレゼント癖があるのかも?
――ひとつ、オタク心理についてお聞きしたく。オタクと自認していようが、いまいが、多くの人が何かにハマる、ということはあります。現に最近の調査では、女子高生のじつに8割が自らを何らかの「オタク」とし、同じく8割がそこにポジティブなイメージを持っているそうです。しかし、それが続くか、続かないか。分岐点のひとつは「いったいこれを追っていて、何につながるんだろう」と感じる瞬間にあると思うんです。そう感じられることはありませんか?
かん 質問自体がまるで、筋トレをしている人が「赤身じゃない肉を食べても、筋肉にならないのにどうすんの?」と言っているようなものですよ! 答えは簡単です。「おいしいやん」と! オタクごとに結果はないかもしれない。でもね、すべての事象に結果を求める必要があるのかな、とも思いますよ。
もぐもぐ 難しい話じゃないですよね。公演が終わると、「最高!」という状態で家に、帰ります。寝て、また明日が来る。「幸せコスパ」という考え方をしていますから。
かん 確かに刹那的ではありますよ。オタクごとはある意味、ドーピング的なところもありますよね。 私自身、K-POPに加え宝塚を追うようになって、よくなった部分があります。たとえセブチの公演がない期間でも、宝塚に行けるようになったので。テンションが下がり切る前に上げる、ということができるようになりました。
漠然としたお金の不安はあったけど……
――でも、アラサーのおふたり、オタク活動を続けていくことへの不安もあるでしょう。ずばり、今回の本題であるお金の話です。
もぐもぐ この本での実践をする前までは不安もありましたよ。例えば来月再来月まではお金の面で大丈夫でも、この先どうなるのかって。急に病気になったり、急に仕事を辞めることになったりしたらどうしようって。将来に備えなければいけないのはわかっているけど、60歳になったときのことは未来すぎて分からない。だから心の中では「いいや、とりあえず、今は」と先延ばししていて。ぼんやりと不安はあるけど、具体的に何かしようということはなかったですよね。
かん 不安はあるけど、差し迫ったものではありませんでしたね。あと、退職金もらえない世代じゃないですか。我々の世代って。
もぐもぐ 暗い話だな~。
かん 「退職金、もらえないのかな?」「年金? 何歳くらいからもらえるの?」みたいな疑問や不安はあるんですけど、その話も30年とか40年先のことです。「そんな先のこと、今から考えないといけないのかな?」みたいな思いはあるんですけど……。
もぐもぐ 雑誌の特集を見ても「老後のために3000万円貯めろ」とかあるじゃないですか。でも、時間的にも金額的にもゴールが遠すぎますよね。目的なく、闇雲に貯めるのもなんだか虚しいな~と思っていました。
――そこで、今回の本の共著者である、ファイナンシャルプランナーの篠田尚子先生のお話が重要になってきます。そもそもの出会いは?
もぐもぐ 私たち、もともと「使う」ことは得意で(笑)、『浪費図鑑』(小学館)という書籍でもいろんなオタクのお金のアッパーなお金の使い方を紹介してきました。とはいえ、このまま楽しく使い続けてて大丈夫なのか?という不安もどこかにあり……。「そろそろお金の貯め方、学びたいな」「オタクとお金をテーマに何かイベントができないかな」と思っている時に、いつもお世話になっている方から「合いそうなファイナンシャルプランナーさんいらっしゃいますよ」とご紹介いただいたんです。
かん 最初の顔合わせの時に、「じつは私も……」といった話になって。メジャーリーグを追いかけていて現地まで飛んでいると言うんです! 紹介してくれた方も、もともと先生が「浪費家」ということを知らなくて。「質問に答えられそうな方」ということだけで紹介してくださったところ、予想外に意気投合して。
もぐもぐ ふだんされているイベントは、もっと硬い内容のものらしいんですよ。個人投資家向けのものを。でも先生は、私たちの初歩的な質問に答えてくださいました。そういうノリだったんで、企画していたイベントも「オタク寄せにできるね」ということになり。本にする時にもそのイベントに追加要素を加えたというところです。超ラッキーな出会いでした。
浪費家でも使いながら増やせる
――先生自身がプロ野球観戦、ライブ・フェス・コンサート参戦大好き。“根っからの現場主義で浪費家”と言い切る。本の第1章では、「健やかな浪費3つの原則」から話が展開していきます。自分で使うお金は自分で稼ぐ、使える国の制度は徹底的に使い倒す、いざというときのための蓄えは3段階で、という。
かん 読んでくれた方は、冒頭の「浪費生活の主な支出パターン」の図ですごく安心してくださるようで。『おっさんずラブ』のブルーレイボックスで2万3500円とか、なかなか一般の方には理解しがたい出費だと思うんですけど。先生から否定はされません。
もぐもぐ ふつうはファイナンシャルプランナーさんなどにお金の話をしたら、どうしても叱られちゃうんじゃないかって思いがちなんだけど、違いました。「(無駄な出費を)削りなさい」という考え方じゃなくて「まずは自分のお金を把握しましょう」という考え方だから、やれるんじゃないかと。
かん (本を見せながら)ほら、見てください。この例だと、「15万円。服代。イベント用に購入」とかありますよ。
もぐもぐ 篠田先生はもともと投資信託の専門家で「使うお金を減らそう」ではなく、「使いながら増やしていこう」という考え方なんですよね。投資や運用というと「儲かるやり方」「楽に儲ける」という方向に行きがちですが、それはハイリスク。安定して積み立て、無理なく運用することで放置プレイOKにしよう、というやり方が、オタクの話とうまくつながった感じでした。
かん 考え方が女性誌などの特集でありそうな「節約する」というものとは違うんです。例えば「1000万円を節約して貯めましょう」というのなら、使うお金を減らすという考え方ですよね。でも投資信託なら、「収入の底上げをしましょう」という考え方です。生涯所得・年収がかなり変わってくると思いますよ。しかも早めに始めると、積立というやり方はいいですよね。
――第1章ではその、投資信託へと向かっていくための考え方が出てきます。まずは「国の制度を使い倒せ」ということで、お得な年金制度のiDeCo(イデコ)、そして初心者向けの資産運用口座のNISA(ニーサ)という2つがキーワードです。
かん はい。この本の基本、というべき話ですね。NISAの手続き、簡単でした。証券口座を作ればよかったので。それだけで仕組みが出来ていくという。
もぐもぐ オンライン上でピピピと必要事項を入れて。
かん 銀行にも行く必要がありませんし。
――自分の財政状況など、細かい個人情報を聞かれることはありませんでした?
もぐもぐ ありませんね。
かん 無料でしたしね。
――この本の話を享受していくなかで、重要だと感じたポイントがあります。お金を把握する人、しない人。そこの差です。お金のことを考えるって、楽しいことに水を差すことじゃないか。そう考える人も多いのでは。
かん 本を読んでいただければ、分かっていただけると思います。把握したくないっていう人は、「年をとった時も、浪費を楽しむつもりがあるの?」ということだと思います。オタクをずっとやっていたい。そういう強い意志があれば、把握してみようという思いになると思いますよ。
もぐもぐ とはいえ、世の中の大半の人は自分の財政状況は直視しにくいと思うんです。この本から別のことが言えるとすれば、「細かく家計簿をつけるよりは、天引きした方がむしろ気が楽」ということです。私も、さっき言ったiDeCo、NISAを始めましたが、普段の細かいことは把握していませんよ。
気が向くと、日帰りで大阪で観劇して3万円かかったりしますが、5万くらいパッと使って、「ああ、楽しかった」といって寝てます。本来的な意味では臨時出費ですよね。「やばい。5万円も使っちゃった」って思う人もいるかもしれないですけど、「ま、いいっか、今月頑張ったし」というかたちで軽く流してます。最低限「2万円は今月も積み立てているし!」と前向きに考えられるようになってよかったです。細かく直視したくない!という人にこそ、天引きで積立はオススメです。
お金のこともオタクごとも仲間がつないでくれる
――この本で「なるほど」と思わされた点があります。篠田先生の言う、「オタクというのはいったん勉強し始めるとスイッチが入る」というくだりですよ。きっとファイナンスや会社経営の専門家は、その方面のオタクだということですよ。ジャンルが違うだけ。
もぐもぐ 先生は言うんですよ。「オタクは『これがいい』となると、資料請求まではめっちゃ速い」と。読むことや、情報を集めることは嫌いじゃないんです。その行動力というのが一番大事で。この本のもうひとつの狙いは、やる気がある、一歩踏み出そうという気合のようなものを後押ししようとする点でしたね。さらに言えば、お金のことに関して細かく段階を踏むステップをお見せしよう、という点は意識したかもしれません。内容が理解できなければ、スッと分かるところまで戻れるようにと。第3章は応用編なんですが、難しければ、元に戻れるようにという構成にはしました。
かん もちろん、最初から全ては理解ができない部分もあると思いますよ。オタクごとを始める時も同じですよ。ただ、オタクには仲間がいます。新しい情報を仲間に勧めてもらえる、ということがあるんですよ。歌手にハマっている場合だと「このミュージックビデオから見てみて」などと。そうすると、点と点が線でつながる、という状況が生まれてくるんです。「あ、このメンバー、別のミュージックビデオでの姿も覚えてる!」といったふうに。お金のことも同じです。最初からすべてを理解する必要はないと思うんです。仲間と理解し合う、ということもできますから。
――仲間うちでやれる、口コミでお互い教えあえる、というのはオタク文化のすばらしい点でしょう。
かん 実際この本を出した後、ツイッターを見ていても「友達に買ってあげた」といった話が多いんですよね。読者が、「これ読め」って。私たちに必要な本だと言ってくださり。
もぐもぐ お互い、ある程度の情報の土壌があれば、この本に関しての会話ができるという面もありますよね。
かん iDeCo、NISAの話は基本ですから。共有できる情報があってこそ話が可能なわけです。そうやって話をしていくなかで、周囲からも「こういう貯金ができるようになったよ」という新しい話が出てきて。それはよかったなと思いますよ。お金の話って、ふだんはやりにくいんだけど、「こうやって貯金したらいいよ」といった話がオタク同士で生まれているようで、それは嬉しいですよね。
――最後に。ほんの一歩、お金に関する意識を変えるという新しいオタク仲間へのアドバイスを。
かん 節約、という考え方じゃなくて、この本では「最初に口座から貯金分を移そう」っていうところから書かれています。すると生活に使えるお金がいくらあるか分かる。“オタク分”は減らさないんですよ。
もぐもぐ ちょっと細かいことを言いましょう。私も経験していることなんですが、iDeCoで2万円天引き・積立されると、確かに銀行口座の残額は減ります。でも先に引き落とされている分、心理的にはあまり減った感じがないんです。やっていて実感しているところです。「今月はあとこれだけしかないから、あとこれくらい残さなきゃ」というほうが、苦しいですよね。最初からATMで示される残額が減っていた方が気持ちは楽。先生はそういった意味で「仕組みづくり」ということを言われていました。そちらのほうが精神的には楽なんですよね。
――ミクロ経済・マクロ経済の双方から日本を変えていく本かもしれません。個人レベルでの消費をどんどん促進する。そうやってオタク経済全体を活性化させていくという。
かん 浪費し続けるための本ですから! 一生浪費するという。
もぐもぐ やっぱりね、我慢するのは辛いし。お金がない、というマインドでいると、どんどん暗くなるじゃないですか。楽しく使いながら、将来を過ごしていきたいでしょう。これをやっておけば、なんとかなると感じられたので、私自身が本を作ってみて前向きになりました。今までモヤモヤとしていたところもあったんですが。
かん 実はこれからの野望がありまして。オタク女性がこの「お金」というジャンルにもっとハマって、増やして使うことにハマれば、まさに経済が回復するんじゃないかなと。今までそれをやっていなかった層じゃないですか。だからこそ、成長・回復の余地がある。そんなことも思っています!
取材を終えて
『一生楽しく浪費するためのお金の話』を通して一生浪費への地盤づくりができた劇団雌猫のお二人。これで老後も浪費できて安泰だろうと思いきや、探求心と向上心があるのがオタクたる所以。さらなる高み(浪費)をめざして、こんな質問が飛び出しました。篠田先生、教えてください!
Q.先生の教えどおり、給料3カ月分の貯金を確保し、iDeCoもNISAも満額を支払っています。この先さらに楽しくオタクごとにお金を使うために、私たちが次にやるべきことは何ですか?
篠田先生 「ごほうび投資」を実践してみてください。
既にiDeCoとNISAを満額やっていて、さら余裕があれば、通常の証券口座(特定口座)でも毎月、投資信託の積み立てを実践します。ポイントは、1年後に振り返ったとき、利益が出ていたら、その分は「ごほうび」として解約してもOKというゆるいルールにすること。
例えば、毎月5,000円ずつ積み立てて、1年後に全体で5%の利益(積立総額6万円×5%=3,000円)が出ていたら、利益分の3,000円だけ解約してちょっと豪華なランチをするとか、グッズ代に充てるとか、浪費に回してOKとします。
ただし、利益が出ていなかったらグッと我慢して、またもう1年積み立てを続ける! 積み立てた資金(投資元本)には手をつけないというのが鉄則です。使える楽しみがあると、もっと貯められるようになりますよ。