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声優・浅野真澄さんが「あさのますみ」として絵本出版 「声優の役作りの延長線上に、作家の仕事がある」

文:坂田未希子、写真:有村蓮

――「きょうの ごはんも おいしそうだなあ」「おつぎは だれの でばんかしら」。丼ぶりにスープ皿、お茶碗にお椀、食器棚の中で出番を待つお皿たちの楽しみは、自分に盛り付けられたご馳走を味わうこと。ある日、新しい仲間「まめざらちゃん」が加わって……。作家・声優として活躍するあさのますみさんの絵本『まめざらちゃん』(白泉社)は、美味しそうなお料理と可愛らしいまめざらちゃんの一喜一憂にワクワクし、思わず家の食器棚をのぞいてみたくなるお話だ。

 子どもの頃から食器を身近に感じていました。好き嫌いが多くて、お皿の模様を眺めながら、ちまちま食べているような子どもでした。5歳くらいの時に、大好きな小花柄のお皿が母の嫁入り道具だったと知って、このお皿は私が生まれるずっと前からいて、この先もずっと一緒にいられるんだって思ったんです。それから、これはいつ買ったんだろう、これはどこからきたんだろうとか、お皿に親しみを感じるようになりました。

 今も食器が好きで買い集めています。器によって、華やかなものもあれば、ゴツゴツしたものがあったり、作家さんが作った器は言葉を持っているような気がしたり。それぞれキャラクター性があるように思います。そんなお皿たちを主人公にしたお話が書けたらいいなと発想を膨らませていきました。「まめざらちゃん」は、作家ものではなく、デパートのワゴンの中で売っているようなお皿です。ありふれたお皿だけど、それが役割を得て大事にされていく様子を描きたいなと思いました。

『まめざらちゃん』(白泉社)より

――デビュー作『ちいさなボタン、プッチ』(小学館)ではボタンが、『トイレこちゃん』(ポプラ社)ではトイレのマークが主人公になるなど、あさのさんの絵本には身近にありながら、あまり目に留めないようなものが主人公になる作品が多い。そこには子どもの頃の読書体験が生かされているという。

 「もっと外で遊びなさい」って言われるぐらい、本ばかり読んでいました。本の中で自分が全く注目していなかったものが主人公になっていると、それをすごく身近に感じるのが楽しかったんです。ボタンが主人公だったら、自分や家族の洋服のボタンが気になって、友だちみたいな気持ちになったり。本を読むといつもとは世界が変わって見える、その体験がすごく面白くて、より読書が好きになりました。私の絵本を読んだ子どもたちにも、そんな体験をしてもらえたらいいなと思って、そういうものがテーマになることが多いんだと思います。

――作家デビューから12年目を迎えたあさのさん、実は「声優・浅野真澄」としての顔も持ち、声優、ナレーター、ラジオパーソナリティーなど、多岐にわたって活躍している。声優になったのは、学生時代、友人に誘われてオーディションを受けたのがきっかけだった。仕事に恵まれていたものの、30歳を目前に将来に不安を感じたという。

 声優の仕事は人気商売なので、次々と新人が入ってくるし、自分も消費されていく。出演した作品も私にとってはすごく大きなものでも、周りの人はどんどん忘れていく。私はこれからどうなるんだろうと漠然と不安を感じていたときに、たまたま入った本屋さんで、床に座り込んで絵本を音読している女の子に会ったんです。

 読んでいたのは、私が子どもの頃に好きだった『ぐるんぱのようちえん』(福音館書店)でした。その絵本がまだ読まれていることに驚いて、消費されることに不安を抱えていた私にはすごく眩しく感じられたんです。「私もこんな風に長く愛されるものを作りたい」。そう思ったのが絵本を書くきっかけでした。

――2007年、『ちいさなボタン、プッチ』で第13回おひさま大賞童話部門最優秀賞を受賞。これを機に、作家活動の道が開かれると思ったものの、授賞式の挨拶で現実の厳しさを知らされることに。

 編集長さんの挨拶で「今日ここにいる皆さんは、今回受賞されてすごく晴れやかな気持ちでいると思います。でも、来年には次の受賞者が現れるし、他のところでも受賞している人がたくさんいます。おひさま大賞受賞の効果があるのは1年、賞味期限は1年だと思ってください」って言われて(笑)。もっと絵本のことを勉強しなければと思って、きむらゆういち先生の「ゆうゆう絵本講座」を受講しました。

――講座を卒業後、『ぼくんちに、マツイヒデキ!?』(学研)を出版。8冊目となる『まめざらちゃん』は、第7回MOE創作絵本グランプリを受賞した。本作の魅力は、物語はもちろん、美味しそうな料理たちにもある。絵を手がけた、よしむらめぐさんも「ゆうゆう絵本講座」の受講生だったそう。

 講座を卒業した後も、時々、先生に会いに行ってるんですが、新しい作品の絵を描いてくれる人を探していると相談したら、生徒さんのファイルを見せてくれたんです。その中で、よしむらさんの絵がすごく素敵でこの人にお願いしたいと思いました。絵から真面目な人柄が伝わってくるというか、とにかくすごく上手だったんです。

『まめざらちゃん』(白泉社)より

 普段は間に編集さんが入ってくださるので、あまり絵に注文することはないんですけど、今回は2人で作って受賞することを目指していたので、細かいところまで注文しました。私があんまりいろいろ言ったので、「泣きながらお酒を飲んだこともある」って、後から言ってました(笑)。

――豆皿の形から色、模様。ほかの器と並べた時にどうしたら目立つのか。どんな料理をのせたら子どもたちが喜んでくれるのか。2人でとことん話し合った。

 丸い豆皿にしようという案もあったんですけど、それだと、主人公感が全然ないので、花の形にしたらどうか、花びらは5枚だとどうか、7枚だとどうかとか。模様も入れすぎるとうるさいけど、何も入ってないと他の器たちに比べて地味になっちゃうとか。

 料理も子どもたちが好きで、絵本の中でも映える、絵にしがいがある料理を考えました。例えば、グリーンピースが入っていると、グリーンピースが嫌いな子が「うえっ、これ食べたくない」ってなるかもしれないからやめようとか、お寿司はみんな好きに違いないとか。餃子はもうちょっと焦げ目があったほうがいいんじゃないかとか。よしむらさんは、実際に自分で料理して、それを見ながら描いているんですが、思っていた以上に美味しそうな絵にしてくれました。

 受賞した時は、私よりも、よしむらさんの頑張りが報われてよかったって思うぐらいほんとに頑張ってくれて、記念に「まめざらちゃん」そっくりの豆皿を探してプレゼントしました。出版するときに奥付の絵を描いてもらったんですけど、私が贈った豆皿にバウムクーヘンをのせて描いてくれて、とても嬉しかったです。

――物語を考えるのは移動中や、スタジオでの待ち時間。声優と作家、仕事は多岐にわたるが、それぞれを区別するのではなく、どちらも延長線上にあり、近い仕事だと言う。それは、子どもの頃からの絵本の楽しみ方にも似ている。

 声優のお仕事をするときは、台本には台詞しか書かれていないので、その台詞を言う心境や心情、どんなバックグラウンドがあってここに至ったのか考えて役作りをしています。お話を作るときも、まめざらちゃんになりきって、こんな時どんな気持ちかなとか、こんなふうにされたらどう思うんだろうとか考えているので、気持ちを声で表現するか文章に置き換えるかだけで、近いものだと思ってます。

 子どもの頃から、絵本の隅っこに描いてあるキャラクターになりきって、「この人はいま何を考えてるんだろう」と想像していました。絵本が好きな子はみんなそんな風にして遊んでると思うんですけど、私もそんな風に絵本を楽しんで大人になりました。これからも子どもの頃の自分が喜びそうなもの、この作品に出会えたらきっと幸せだっただろうなと思うようなものを書いていきたいと思っています。