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本との出会いが未来を変える 新日本製薬代表取締役・後藤孝洋さんの本棚

セミナーをあきらめて買った本が思わぬ収穫に

 私は10代から働き始めました。出張で上京することもあり、ある日東京の街角で自己啓発セミナーのチラシをもらいました。自分には秀でた才能もなく、サラリーマン家庭で育ったので、特別な人脈もない。けれどもいつか成功したい。経営者になりたい。そんなモヤモヤを抱えていた時期だったので、チラシに興味を持ちました。しかしそのプログラムは30万円前後。お金がなかったのであきらめ、せっかく持った興味を本に向けました。「樹木一本 作れるマッチは百万本 マッチ一本 燃える樹木は百万本」。書店で手にした『思考は現実化する』の冒頭にこの言葉を見つけ、衝撃を受けました。1本のマッチのように1人の人間も火のような情熱を持てば、何かを成せると思えたからです。目標の設定の仕方など、実践的な成功法則も参考になりました。今も自己診断の意味で時折読み返しています。

 24歳の時に当社に入り、最初は健康食品の営業を務め、その後、通販事業の拡充に奔走しました。20代後半に管理職を任され、この頃から経営書を読むようになりました。経営視点の軸となったのが、『ビジョナリー カンパニー 時代を超える生存の原則』。この中で、ORではなく「矛盾するものを同時に追求する『ANDの才能』」という考え方が出てきます。当社は理念にある社会貢献などの利益を超えた活動と、現実的な利益の追求の両立を目指す会社なので、腑に落ちる内容でした。また、「重要なのはカリスマ的指導者ではなく、ゆるぎない理念と、進歩を促す明確な目標と仕組み」という指摘にも大いにうなずきました。私自身カリスマタイプではありませんし、だからこそ人の3倍働くことをモットーとしてきました。今は経営者として、社員が熱意を持って目標を達成し、理念を受け継いでいける仕組みづくりに心を砕いています。

 『武士道』は、幼少期に空手をやっていたこともあって一度読んでいましたが、社長になってから読み返しました。社内で国際ボランティアなどを推進する中で、「日本とは、日本人とは」ということを考えさせられる機会が多いからです。私が好きなのは、「義」について書かれた章。正しい行いを優先する義の精神を、経営においても生き方においても大事にしたいと思います。新渡戸稲造が義を語るうえで引用した、真木和泉の言葉も心に残っています。「人は才能があっても、学問があっても、義がなければ世の中に立つことができない」という言葉です。「義があれば、人の役に立てる」と置き換えて、私自身の行動指針にしています。

本が教えてくれた企業の社会貢献のあり方

 『飛べない鳥たちへ 無償無給の国際医療ボランティア「ジャパンハート」の挑戦』は、国際医療ボランティア団体「ジャパンハート」の設立者・吉岡秀人さんの活動記録です。私が吉岡さんを知ったのは、NHKのドキュメンタリー番組でした。吉岡さんは医師として日本と海外を行き来し、初めて国際医療に携わったミャンマーでは、吉岡さんが当時所属していたNGOからの給料すべてを、診療所の資金や子どもたちの給食費に回しました。「戦争中に日本兵に手をさしのべてくれたミャンマーに恩返しを」という思いからだったそうです。吉岡さんをテレビで見て感動した私は、その翌日に同団体に連絡を取り面談。以後ずっと応援しています。本書を読むと、いかにして寄付金を節約し、スタッフの育成や働き過ぎの解消などに取り組み、サスティナブルなボランティア医療を実現しているかも理解でき、吉岡さんの経営者としての手腕にも脱帽しました。

 『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズは、著者の坂本光司さんが、6千社を超える企業研究から、長期にわたり好業績を持続している企業や、世のため人のためになる経営に取り組んでいる企業を取り上げています。「会社は利益を上げるために存在しているのではない。社員とその家族、外注先と下請け企業の社員、顧客、地域社会、株主を幸せにすることが会社の使命と責任である」という考え方に共鳴した私は、2010年に当社の取り組みをまとめて「第2回 日本でいちばん大切にしたい会社」大賞に応募しました。しかしあえなく落選。障がい者雇用、残業、離職率など、様々な面で課題が見つかりました。業績が急成長している時期でしたが、永続的に人々に必要とされる会社の価値とは何か、考えさせられる機会となったのです。その後、課題の解決に努め、2017年に同賞の実行委員長賞を受賞しました。1冊の本が経営改革の指標となったわけです。

 過去は変えられなくても、未来や自分は変えられます。そこに読書が果たす役割は限りなく大きいと思っています。(談)

後藤孝洋さんの経営論

「パーフェクトワン」ブランドを始めとする化粧品や医薬品、健康食品の開発・製造・販売を行う新日本製薬は、化粧品通販市場をけん引しています。

感動を創造し100年企業を目指す

 創業以来「美」と「健康」に特化した商品を展開する新日本製薬。後藤孝洋さんは創業3年目の1995年に入社した。

 「現在の主な流通チャネルは通販ですが、当時は営業が自ら配達して商品を説明していました。私もその一人でしたが、お客様からの『いい商品をありがとう』の言葉が何よりの励みでした。当社は営業と開発の距離が近く、お客様のご意見やご要望はすぐに開発に反映されます。そのスピード感が社の成長を押し上げたと思います」

 2006年には、スキンケア商品「パーフェクトワン」がヒット。市場は福岡から全国へと一気に広がった。

 「通販だからこそ実現できた急成長だったと思います。2010年以降は、カウンセリングを主体とした直営店を百貨店に展開。550以上のバラエティーショップや大型ショッピングセンターなどにも商品を展開しています」

 開発のテーマは、新たなライフスタイルの提案。例えば、化粧水、乳液、美容液などの機能が一つになった「オールインワン美容液ジェル」は、“時短ケア”ができて価格も手頃。現代人が求める「シンプルスキンケア」というライフスタイルに一つの価値を生んだ。品質面での新提案も模索し、コラーゲンや薬用植物の研究を推進している。

 商品バリエーションを拡充した「パーフェクトワン オールインワンジェルシリーズ」は、3年連続オールインワンスキンケア国内売り上げナンバー1(※)。インバウンド需要も伸びており、海外展開も行っている。

成長のカギは経営理念のリレー

 今年創立27年。100年企業を目指すうえで後藤社長が重視するのが、「お客さまには最高の満足と信頼を 社員には幸せと未来への夢を 私たちは社会に貢献する企業として 限りなく幅広い発展をめざします」という経営理念だ。

 「会社の成長とともに組織の規模や形態が変化しても、理念は変えずに継承し、お客様に必要とされる存在であり続けたい。新たに『感動創造』というバリューも掲げました。感動は一人または一つの部門では生み出せません。全部門が一丸となり創造し、お客様と接する部門がその喜びを受け取る。そしてお客様からいただいた感動の声を社員から社員へとリレーしていくことで、次の『感動創造』につながるはずです。人は、1度感動したことには再び感動しません。常に新しい感動を創造できるような企業文化を目指しています」

 理念に基づき、カンボジアでの学校運営支援、障がい者就労支援、被災地復興支援など、社会貢献活動にも熱心に取り組む。

 「座右の銘は、『感謝はするもの。されるものではない』。常に『おかげさまの心』を持っていたいと思います。お客様のおかげはもちろん、社員のおかげという思いも強くあります。通販ビジネスに関していえば、雪が降っても商品をお客様にお届けできるのは、配送会社の皆様のおかげ。パートナー企業を含めすべての方に感謝する気持ちを忘れないでいたいですね」

※富士経済「化粧品マーケティング要覧2017/2018/2019」(モイスチャー部門およびオールインワン部門/メーカー、ブランドシェア2016/2017/2018年実績)

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