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ブレーンバンク代表取締役・植野治彦さんの本棚 若き日の良き教えと読書が心の糧に

愛とは何か。希望とは何か。人生の指針となった一冊

 読書の魅力に目覚めたきっかけは、野口英世の伝記です。小学2年生の時に担任の先生の手伝いをしたご褒美にもらった一冊でした。以後、二宮金次郎からルー・ゲーリッグまで様々な伝記に親しみ、世界の名作にも興味を広げて文学全集を片っ端から読みました。名著からもらった多くの感動は、私の宝です。感動は感情を育み、感情は家族愛や友情を豊かにします。読書を通じて別の人生を疑似体験することで、知識や想像力が養われます。昨今10代の犯罪などがニュースになると、感情や知識や想像力を育む機会に恵まれなかったに違いないと、同情の念にかられます。ですから本学院の生徒には事あるごとに読書を奨励しています。

 私の読書は恵まれていました。入り口は野口英世でしたし、大学は早稲田でしたので、界隈に良書をそろえる古本屋がたくさんありました。二十歳頃に最も影響を受けたのは、精神病理学の草分けである島崎敏樹の著書『感情の世界』(岩波新書・品切れ)です。感情との向き合い方を教えてくれた書で、例えば「愛」について、「相手を自分に吸収して自分がふとろうとするのではなく、自分をとかし、なくして相手にあたえ、相手の生をより高めようとすることである」と書いています。「希望」については、「自分を未来の座にすえて、その自分へとどこうとする努力と不安からなりたち、したがってかすかの不快さえまじる。そしてこの不快がひかえているからこそ、なおのこと身のひきしまる快感が浮きでてくる」と書いています。こうした深淵な言葉の数々が人生の指針となり、後に予備校経営の礎となりました。

 若い頃から経営に興味があり、大学は商学部でしたが、読書好きもあって文学の講義を選択しました。担当教授は「日本文学と言えるのは『万葉集』しかない。だからそれしか教えない」というユニークな方針の方でした。「この歌は大津皇子が処刑される時に詠んだ一首で、なぜ処刑されたかというと……」「この歌は信濃の防人が泣く子を置いて戦に赴く際に詠んだ一首で、当時の防人の境遇は……」「この歌は『織姫が下着を脱いで牽牛を待っている』という意味の色っぽい一首で、詠んだのは山上憶良で……」と、歴史的背景や比喩に込められた詠み手の思いを交えて解説してくれました。おかげで、いにしえに生きたあらゆる身分の人々の心情や暮らしが見えてきて、文字通り“万の言の葉”の面白さを味わうことができました。私は本学院の教員や生徒に「学びは“強いて勉める”ものではなく、楽しむもの」と常々言っています。私自身は良い先生や良書との出会いによって楽しい学びを実感したのでした。

不朽の名作はご馳走を味わうように

 同じく大学時代に読み、最近読み返した本があります。『ジャン・クリストフ』です。内容の詳細は忘れても、ご馳走を平らげたかのような読後の“満腹感”がずっと心に残っていました。主人公のジャン・クリストフは、貧困や社会の不条理にさらされ、挫折を繰り返しながらも、音楽家としての矜持と不屈の精神をもって人間的な成長を遂げます。この物語を芥川龍之介が愛したそうですが、あらゆる苦難に負けなかったクリストフに共感しながらなぜ自ら命を絶ったのか。芥川が亡くなる前に自身の心象風景を書いたとされる『歯車』を高校時代に読んでゾッとしたのを思い出します。それはともかく──。幼いクリストフが極貧の家計を慮って母親に「お腹はすいていない」と嘘をつく描写や、凡庸な音楽家である祖父がクリストフの口ずさむ歌の美しさに気づいて譜面に起こすくだりなど、心打たれる場面が目白押しです。何よりもクリストフの音楽的な感性を疑似体験できるのが本作の魅力で、曲が生まれる時に彼が何を見て何を感じたのか、まさにご馳走を味わうように再読を堪能しました。

 『戦争と平和』も大学時代に出会い、これを原作にしたオードリー・ヘプバーン主演の映画がリバイバル上映されると聞いて、映画館の中で鑑賞の直前に最後のページを読み切りました。愛と戦争に翻弄されたロシア貴族たちの壮大な群像劇に圧倒され、その興奮冷めやらぬまま映画を観たのです。映画の正直な感想は、「原作に勝るものなし」でした(笑)。

 阿川弘之の作品はほとんど読んでいます。『暗い波濤』はIQ、EQ、SQを高めてくれた貴重な一冊です。緊迫した戦時下、予備学生講師が海軍兵学校で勉強の楽しさを教えますが、若い優秀な学生たちは次々と戦地に送られ死んでいく。幸福感や困難さに対するハードルが下がりました。今の時代はやりたいことがやれる時代です。いかに今を生き抜くか。若い人に読んで欲しい作品です。最後にもう一冊、中国残留孤児の実話を描いた『あの戦争から遠く離れて』も推薦しておきます。(談)

植野治彦さんの経営論

 四谷学院を運営するブレーンバンクの創業は1974年。代表を務める植野治彦さんが31歳の時に教材開発事業からスタートしました。2022年10月現在全国に31校舎を運営し、大学受験予備校を始め、小学・中学・高校・浪人生までを対象にした個人指導塾、高卒認定試験対策、社会人向けの通信講座、自閉症の子どもたちのための家庭でできる療育プログラムなどを提供しています。

四谷学院は自己実現の場

「教育の英訳は“education”。その語源はラテン語の“educare”(引き出す)だという説があります。つまり、潜在能力を引き出して露わにすること。なりたい自分になれると気づかせてあげること。それこそがあるべき教育の姿だと考え、『誰でも才能を持っている』という理念を掲げています。単に志望校に受かるための勉強ではなく、その先の未来に希望が持てて、良き社会人に必要なEQ(感情をコントロールする能力)やSQ(社会性や対人能力)をも培えるような学びの場でありたい。そのために講師陣に徹底してもらっているのは、子どもたちの『自尊感情』を高めるような授業です。私がよく言うのは、やる気があるからできるのではなく、できるからやる気が出る。『できた!』という達成感が自尊感情につながり、学習意欲へとつながると思うからです」

基礎から学べる「ダブル教育」

 四谷学院では、科目別能力別のクラス授業と、55段階の個別指導を組み合わせた「ダブル教育」という独自の学習システムを提供。科目別能力別授業は、例えば国語の場合、大きく「国語」と教科で括らず、「現代文」「古文」「漢文」と科目別に分け、それぞれ学力のレベルをチェックした上で「現代文」は選抜クラス、「古文」は基礎クラス、「漢文」は標準クラスなどと、レベルに応じたクラス編成をしている。55段階の個別指導は、基礎から無駄なく学べるように体系化した学習プログラムに基づき、プロの講師が個別指導をする。

 「どんな問題もその根底にある基礎の理解がとても重要で、中1レベルから基礎の理解を促し、得意科目はどんどん先に、苦手科目はじっくり進めて確実な学力をつけていきます」

 コミュニケーション活動において合格者数をうたわないというのも同社の特徴だ。その理由についてはこう語る。

 「合格者数を強調しないと受講者が集まらないという意識は、予備校業界に根強くあります。そしてその対策として、ほとんどの予備校が、難関校に合格する可能性が高い、成績上位者の学費を免除する特待生制度を取り入れています。しかし本学院では、特待生制度を設けていません。なぜなら“誰でも才能を持っている”からです。才能を伸ばすために予備校に通うのですから、通い始めの時点で学力の高い低いは合格に関係がないというのが私たちのスタンスです」

 植野治彦さんの喜びは、「四谷学院での勉強体験が楽しい」「まさか難関大学に入れるとは!」といった受講生たちの声。

 「受講生、そして社員一人ひとりが夢を持ち、考え、工夫し、行動し、自分の中に豊かな資産を築きながら夢を成し遂げられるような自己実現の場を提供し続けていきたいです」

植野社長の経営論 つづきはこちらから