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『人生を変えるサウナ術』著者に聞く、サウナブームとその効用 「ととのう」肝は外気浴!

文:小沼理、写真:北原千恵美

これまでの日本式サウナは間違っていた?

――なぜ今、サウナがブームなのでしょう?

 サウナ本来の楽しみ方が浸透してきたことと、ドラマ化もされたタナカカツキさんの漫画『サ道』やオリエンタルラジオ・藤森慎吾さんのサウナ専門番組「オリラジ藤森のThe SAUNNER ~サウナdeアツアツ~」など、メディアで取り上げられるようになってきたことでブームになっているのだと思います。

 サウナと聞くと、「おじさんが汗をかきながら我慢比べをしている」イメージを持っている人もいるかもしれません。ところが、世界的にみるとサウナで我慢比べをしているのは日本だけ。サウナ発祥の地のフィンランドでは、家族や友人たちと入ってゆっくりコミュニケーションをしたり、グループで貸し切ってパーティをしたりすることが多いんです。

 最近は都心の大型サウナに行くと、4、5人で来ている「サウナー(サウナ愛好者)」たちを多く見かけます。これは昔だったら考えられなかったこと。複数人でサウナに行き、詳しい人が「我慢比べじゃない、気持ちいい入り方」を伝えることで、それが徐々に広まってきているのだと思います。サウナ施設側も、本格的な設備を導入したり、さまざまな企画を考えたりして、エンタメ性が高まっていますね。

――日本でサウナが我慢比べの場のようなイメージを持たれてしまったのはどうしてでしょうか?

 日本にサウナが広まったのは、1964年の東京五輪開催時にフィンランドの選手が選手村に持ち込んだものをメディアが注目したことがきっかけといわれています。

 ところが、その後日本で普及したサウナはフィンランドのものとはまったく別物でした。日本式ではサウナ室内の温度が90〜100℃と熱く、ロウリュ(サウナストーンと呼ばれる熱した石に水をかけ、蒸気を発生させる仕組み)ができないので、空気も乾いている。一方、フィンランドのサウナは75〜85℃ほどが主流で、「ロウリュ(蒸気)にはサウナの魂あり」ということわざもあるくらいロウリュが重要視されているんです。

 熱く、乾いた日本式のサウナは、直感的に苦しいと感じてしまいます。結果、多くの人がサウナに苦手意識を持ち、「じっと我慢すること」に美徳を見出すおじさんたちがサウナに残ったのではないかと考えています。

サウナで得られる3つの効用

――松尾大さんとの共著『人生を変えるサウナ術』では、そんな日本のサウナの変遷や、正しい入り方、ビジネスパーソン向けの効用などが書かれています。読みながら、最近サウナに興味を持った人のための教科書のような本だと思いました。

 まさに教科書のような本を目指していました。サウナについて体系的に書かれた本は、日本にはなかったので。サウナに入ったことがない友達に、「まずはこれを読め」と言えるような内容にしたいと思っていました。

 効用もなるべく具体的に書いています。運動後のような爽快感が感じられる、良質な睡眠を得られるなどの「フィジカル的効用」、自律神経が鍛えられる、デジタルデトックスとマインドフルネスの時間にできるなどの「メンタル的効用」、サードプレイスとしてのサウナ、コミュニケーションのきっかけとしてのサウナなどの「ソーシャル的効用」。この大きく3つの効用を、僕たちの経験や海外の論文、医学的な検証をもとに示しています。

――最近はサウナに入ったあとの気持ち良さを「ととのう」という言葉で表現します。感覚的な言葉として使われている「ととのう」を、具体的な効用として言語化していると感じました。

 これまでのサウナ本で語られる効用は、感覚に頼ったオカルトチックなものも少なくありませんでした。でも、僕自身がエビデンスを求めるタイプだし、雰囲気で書いたものではビジネスパーソンたちは納得しない。ビジネスパーソンたちにサウナの魅力に気づいてほしいと思って書いた本なので、しっかりとした根拠を示すことにこだわりました。

 「ととのう」という感覚も、時々勘違いしている人がいます。サウナと水風呂に入ってめまいを起こし、視界がぐらぐらしている状態を「ととのった」だと思っているんです。本当の「ととのう」は、本の効用で示したような、心と体が解放されたような究極のリラックス状態のこと。めまいがするのは急激な温度変化によるヒートショック現象や、熱中症の可能性がある症状なので、気をつけてほしいですね。

 また、「サウナは危険」といったイメージに対しても、どんな人がどんな条件で入ると危険なのかをはっきり書いています。「芸能人がサウナで倒れた」といったニュースを聞いて入るのを躊躇している人にとっても役立つ内容になっていると思いますよ。

「ととのえ親方」松尾大さんとの共著になった理由

――本田さんがサウナに行くようになったきっかけを教えてください。

 最初にはまったのは今から20年近く前、自分の会社を上場させようと頑張っていた時期です。当時、近所にあるジムのサウナによく行っていました。ここのサウナはテレビがないから静かで、薄暗くて人も少ない。サウナ室に僕ひとりになることもしょっちゅうでした。

 当時は考えるべきこと、やるべきことがたくさんあったけど、会社に行ってしまったら落ち着いて考えている時間はない。そんな中で、自分にとってのマインドフルネスを実践する場がサウナになっていったんです。

 血流が良くなるとアイデアも浮かびやすくなるから、サウナで10分ほど考えて、水風呂でリセットして……それを1時間、毎日のようにやっていました。振り返ってみると、あの時サウナでたくさん考えたことが今につながっていると思います。

 ただ、あの頃はジムがメインで、サウナにそんな効果があると確信していたわけではありませんでした。「サウナ=おじさんのもの」というイメージもあったので、サウナ好きを公言してもいませんでしたね。

――なぜ、そのイメージが変わっていったのでしょう?

 「ととのえ親方」としてサウナの素晴らしさを伝える活動をしている松尾大の存在が大きいです。松尾とは10年以上の長い付き合いなのですが、お互いがサウナ好きだと知ったのは4年前。2016年に函館で開催された世界料理学会というイベントに松尾を連れて行ったとき、彼がすさまじいサウナーだと発覚したんです。

 当時まだ料理に詳しくなかった松尾は、イベント後の食事会でシェフやソムリエを相手にサウナの話ばかりしていました。最初は若干変な空気になりましたが(笑)、料理人の中にもサウナ好きがいたり、これまで関心がなかった人が行ってみたいと言い出したりして、翌朝みんなで行くことになったんです。そこから「こんな風にすれば、もっとサウナを楽しめるんだな」と知って、イメージが変わっていきましたね。

――松尾さんの存在が大きかったのですね。この本は松尾さんとの共著ですが、それぞれどのように分担したのでしょうか。

 最初は僕宛に「サウナ本を書きませんか」と依頼があったのですが、松尾と一緒に書いたらもっと良いだろうと思い、共著にしようと提案しました。

 内容に関しては、分担したというよりも二人のアイデアを投入して、一人の人間が書いたようなかたちにしています。共著だと章ごとにそれぞれの著者が書くことが多いですが、そうすると文体も内容も変わってしまい、読みにくくなることがある。あえて一人が書くことで、一冊の本として流れるように読めることを意識しました。

メインディッシュはサウナでも水風呂でもない

――本の中では、もっとも効果的な入り方は「サウナ→水風呂→外気浴でワンセット」だと紹介していますね。「外気浴、すなわち休憩の時間を味わい尽くすためにサウナと水風呂があるといっても過言ではない」とまで書かれています。

 外気浴を挟まず、サウナと水風呂を行き来している人も多いのではないかと思います。僕も最初はそうで、外気浴を挟む方法は松尾から教わりました。今となっては、外気浴をやらないともったいないと思っていますよ。熱いサウナ、冷たい水風呂で交感神経優位になった体が副交感神経優位にスイッチし、「ととのう」状態を得られるのが外気浴の時間なんです。

 去年、とあるフィンランド人とサウナと話している時に、「フィンランドの人たちは何のためにサウナに入るの?」と聞いてみました。すると、彼は「サウナのためでも、冷たい水を浴びるためでもない。外気浴が何より気持ち良いんだ」と答えてくれました。フィンランドは川沿いや湖畔にサウナがあることが多く、水風呂の代わりに川や湖に飛び込みます。そのあと、裸のまま自然の中で過ごす外気浴の時間が一番の快感なのだそうです。この話を聞いて、やっぱり外気浴が一番大事なんだと確信を得られましたね。

――それぞれの時間の目安はあるのでしょうか?

 僕や松尾の場合、サウナ4:水風呂1:外気浴5の割合を目安にしています。ただ、時間配分やセットをこなす回数に決まりはありません。感覚や体調にあわせて、気持ち良く入れるように調整してくれたらいいと思います。

これからは、サウナのために汗を流したい

――サウナブームはこれからどうなっていくと思いますか。

 本の中では、コワーキングスペースとサウナを併設し、そのリフレッシュ効果を仕事に活かせる「コワーキングサウナ」などを紹介しました。これからはオフィスにサウナを併設する企業も出てきそうです。

 それから、キャンプ場にテントサウナやサウナログハウスを併設した場所が増えています。フィンランドでは湖の湖畔でサウナに入って、水に飛び込んで、森の中で外気浴をするのが主流だと考えると、自然の中で楽しめるこの施設はとても良いですよね。サウナに行くために旅をする「サ旅」も広がってきています。

 今はサウナのイメージが大きく変わっていく時期だと感じています。僕は15年ほど前、サウナで知り合ったある企業の社長に出資していました。彼が取り組んでいたのは、日本にヨガブームを巻き起こすこと。当時の日本では、ヨガというとオウム真理教などのイメージが根強く、あまり良い印象がありませんでした。でも、その彼は「ニューヨークでは今すごく流行っていて、おしゃれなヨガウエアがトレンドになっている」と言います。海外でメジャーだけど、日本ではマイナーなもの。それは必ず流行らせることができるのだと。

 そうして現在、ヨガを取り巻く環境は劇的に変わりました。おしゃれで健康に良いものとして、広く受け入れられていますよね。サウナでも、それが起きつつあると感じます。

 日本は銭湯に併設されるかたちで、パブリックなサウナがたくさんあります。興味を持てばすぐに行くことができますし、ブームはさらに広がっていくと思いますよ。

――本田さんと松尾さんの今後の展望を教えてください。

 松尾はよくこう言っています。「サウナで汗を流すだけじゃなくて、サウナのために汗を流そう」と(笑)。これまでたくさんサウナの恩恵を得てきましたし、サウナの楽しさをもっと提案していけたらと思っていますね。全国の「今行くべきサウナ」を選定する「サウナシュラン」などはその一環です。まだまだ知られざる良いサウナがたくさんあるので、力を入れて紹介し続けたいです。

 この本も出版当初はどれだけ売れるか未知数でしたが、ありがたいことに増刷を重ねています。プッシュしてくれているサウナ施設も多いようですし、これからサウナーになる人のための入門書として読んでもらえたらうれしいですね。