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「ハウ・トゥー」書評 笑いながら「相場観」や常識養う

評者: 黒沢大陸 / 朝⽇新聞掲載:2020年03月14日
ハウ・トゥー バカバカしくて役に立たない暮らしの科学 著者:ランドール・マンロー 出版社:早川書房 ジャンル:自然科学・科学史

ISBN: 9784152099099
発売⽇: 2020/01/23
サイズ: 19cm/398p

ハウ・トゥー バカバカしくて役に立たない暮らしの科学 [著]ランドール・マンロー

 どんな方法で川を渡るのか。例えば、流れている水をすべて蒸発させる。
 川の水を電気ポットに入れて蒸発させるには、カンザス川なら1・2リットル入る電気ポットが3億個と、それを置く直径約3キロの円形エリアが必要となる。準備できたとして、実行には、とてつもない量の電気を使わなければならない。その電気を確保できたとして、スイッチを入れると(ブレーカーが落ちなければ)、膨大に発生する水蒸気はキノコ雲を形成、電気ポット群は溶けて溶岩の湖となる。
 そう、こんな方法を考えるのは無意味。でも、そう切り捨てちゃったら面白くないでしょう。
 「穴を掘るには」「物を投げるには」「自撮りするには」といった数々の問いを立てて、奇想天外な方法を示しつつ、技術的な実現性を細かく検証する。理科や数学が苦手でも、ほほえましいイラストとユーモラスな解説が不思議な世界にいざなってくれる。
 あり得ないことを実現しようと思考実験を進めることで、何が起きるか、なぜ無理か、無謀なのか、あるいは経済的に無意味なのかを実感させられる。
 米航空宇宙局(NASA)の技術者だった著者は前著『ホワット・イフ? 野球のボールを光速で投げたらどうなるか』で、さまざまな突拍子もない質問に科学の知識を駆使して回答した。
 どれも、「役に立たない暮らしの科学」かも知れないが、笑いながら得られる知識は、さまざまな現象や物事の妥当性、科学的にあり得るかどうか見極める「相場観」を養ってくれる。得られた科学の常識感覚は、生活にも「役立って」しまうはずだ。
 我々は「川の水を電気ポットで蒸発させるなどバカバカしい」と笑っていられるだろうか。「新型コロナウイルスに花崗岩(かこうがん)が効く」「地震を予測して的中し続けている」。こんなデマや怪しげな商売がまかり通っているのも、そんな相場観が足りないからだろう。
    ◇
Randall Munroe 米のインターネットマンガ家。元ロボット技術者。『ホワット・イズ・ディス?』など。