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第1回「親子で読んでほしい絵本大賞」に「字のないはがき」 角田光代さんが新たに見いだした向田邦子の言葉とは

文・写真:吉野太一郎

 この賞は、一般財団法人・出版文化産業振興財団が養成している「JPIC読書アドバイザー」の修了生たちが、2018年9月から2019年8月までに刊行された絵本400冊の中から投票などで選定。第1回の大賞には向田邦子さんのエッセイをもとに、角田光代さんが文、西加奈子さんが絵を担当した『字のないはがき』(小学館)が選ばれました。

 原作は、戦時中に疎開先で体調を崩した末の妹と、心配する父の姿を描いた向田さんのエッセイ「字のない葉書」。会員からは「戦争中のエピソードでありながらも家族の愛情の機微を描いた良い作品」「角田さんの文章が原作に忠実。西さんの迫力ある絵が、物語をさらに盛り立てている」と高い評価を得ました。

「重圧に耐えてよかった」

 文を書いた角田さんは「もしこれが向田邦子さんのエッセイの中に収まったままだったら、たぶんお子さんは読む機会がなかったんじゃないかと思うので、ふさわしい賞を頂いたと思っております」とあいさつ。

 2017年に編集者から執筆の依頼を受けてから「向田さんの大ファン過ぎて、どうすればいいのかと考える日が長く、なかなか手に着けることができず、制作にとりかかるのも刊行も遅れた」と打ち明けましたが「重圧に耐えながらゆっくりやってよかった。私が書き終えたのがちょうど、向田さんが亡くなった51歳のとき。向田さんの仕事を残せたことを非常にうれしく思っています」と受賞の感慨を語りました。

 「エッセイの中からいかに作者の声を見いだし、簡単な言葉にしていくかが難しかった」と語る角田さん。重圧だったという作業の中で、原作にはなかった父親の「おおん、おおん」という泣き声を付け足しました。

 「平成生まれの子どもたちが、怖い父親が泣くことの衝撃をどれだけ味わってもらえるだろうか。一切感情の動きが描かれない父親が、声を上げて泣くという場面を書くのが効果的と思った。私が初めてこの随筆を読んだ20代のとき、思い浮かべた映像を、そのまま書いた」と明かしました。

「姉とおそろいのブラウスで祝いたい」

 また、絵を担当した西加奈子さんは「私にとっては大きな大きな(そして身にあまる)プレゼントのような気持ちでいました。だからこそプレッシャーもあり、緊張する仕事でもありました。『向田邦子』という才能を後世に伝えるお手伝いができた事を、心から光栄に思います」。

 向田邦子さんの妹・向田和子さんは「邦子90歳、夢にもみたことがない賞が舞い込んで来ました。姉とおそろいの、姉からもらった50年前のブラウスを着て祝いたい。ありがとうございます」と、それぞれコメントを寄せました。

 主催者としてあいさつしたJPIC読書アドバイザークラブ代表幹事の洞本昌哉さんは「学校が休みとなり、住宅地の書店には多くのお客様が訪れ『どの本を読めばいいですか』というお問い合わせもたくさん頂いている。絵本の好みは十人十色。こんな時代だからこそ、悩んでいるご家庭の方にも間違いないとお勧めできる本を、みんなで考え、広めていければ」と賞創設の狙いを説明。会員の読み聞かせ活動などを通じて、入賞作を周知していきたいと話しました。

 その他の入賞作は以下の通りです。

『なまえのないねこ』(文…竹下文子、絵…町田尚子、小峰書店)
『このほんよんでくれ!』(文…ベネディクト・カルボネリ、絵…ミカエル・ドゥリュリュー、訳…ほむらひろし、クレヨンハウス)
『かんけり』(作…石川えりこ、アリス館)
『じゃない!』(作…チョーヒカル、フレーベル館)
『おおかみのおなかのなかで』(文…マック・バーネット、絵…ジョン・クラッセン、訳…なかがわちひろ、徳間書店)
『水の絵本』(作…長田弘、絵…荒井良二、講談社)
『タタタタ』(作・絵…りとうようい、鈴木出版)
『ぬかどこすけ!』(作…かとうまふみ、あかね書房)
『おしいれじいさん』(作…尾崎玄一郎・尾崎由紀奈、福音館書店)
『ねこです。』(作…北村裕花、講談社)
『お話の種をまいて』(文…アニカ・アルダムイ・デニス、絵…パオラ・エスコバル、訳…星野由美、汐文社)