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「ビーズでたどるホモ・サピエンス史」 10万年前に出現、交換・呪術…人類の多様な用途紹介

ビーズを連ねたカラフルなアフリカの胸飾り

 色とりどりにきらめくビーズ。宝石さながらの輝きに、人々ははるか昔から魅せられてきた。このほど刊された『ビーズでたどるホモ・サピエンス史』(昭和堂)に寄せられた20近くの論考からは、指先ほどの小さな玉に託された壮大な人類の歩みと美の起源が見えてくる。

 穴を開けた素材であるビーズをひもでつなげたものは、子供の遊び道具やアクセサリーの印象が強いが、出現は約10万年前にさかのぼる。国内では旧石器時代の北海道での出土例が古いそうだ。世界のあちこちで使い方もいろいろで、美の観念を獲得した人類がそこに様々な思いを重ねた姿が浮かぶ。

 鮮やかなヒスイやガラスのビーズは美しさを引き立てるが、そもそもビーズの始まりは貝殻とかダチョウの卵とか。動物の骨や歯、植物の種子、石や泥の玉もあって、お世辞にもきれいとは言いがたい。ときに集団間の交換財に、ときにアイデンティティーや帰属意識の証しに。豊かさの象徴や威信財としても機能し、現代の冠婚葬祭でもいろんな形で登場する。

タカラガイのビーズ

 呪術的な力を秘める場合も多い。アイヌ民族の「タマサイ」と呼ばれる首飾りは病気の治癒や安産のお守りでもあった。風変わりなところでは、スズメバチの頭をいくつも連ねた腕飾りや首飾りだろう。台湾の少数民族タイヤル族の、悪霊を寄せ付けない護符だ。

鉄を素材にした珍しいビーズも

 人類の世界的な動きをたどる手がかりにも。たとえば弥生時代や古墳時代の日本列島には、はるかインドや東南アジアで生産されたインド・パシフィックビーズが流入した。「ガラスの道」とでも言うべき交易路が浮かぶ。

 編者の池谷和信・国立民族学博物館教授(環境人類学)は言う。「人と人、社会と社会、世界と世界をつなぐものがビーズなのです」(編集委員・中村俊介)=朝日新聞2020年8月26日掲載