1. HOME
  2. トピック
  3. 文芸賞から飛躍の二人、「肉体」にこだわり 芥川賞・遠野遥さん、三島賞・宇佐見りんさん

文芸賞から飛躍の二人、「肉体」にこだわり 芥川賞・遠野遥さん、三島賞・宇佐見りんさん

文芸賞授賞式での宇佐見りんさん(左)と遠野遥さん=2019年10月

 今年の芥川賞に選ばれた遠野遥さんと三島賞に決まった宇佐見りんさんは、ともに昨年の文芸賞(河出書房新社主催)でデビューした同期の若手だ。29歳の遠野さんは平成生まれで初めての芥川賞、宇佐見さんは21歳の最年少で三島賞を受賞。数々の気鋭を送り出してきた文芸賞の歴史にも、大当たりの年として刻まれるだろう。

 二人のかかわりは、7月の遠野さんの受賞会見からにじんだ。受賞を誰に知らせたか問われ、「新人賞を同時受賞した宇佐見りんさんにLINE(ライン)しました」と回答。重ねて「ご家族には」と聞かれると、「そう言われれば、してないです」と答え会場の笑いを誘った。2カ月後、宇佐見さんも受賞会見で遠野さんに結果を伝えたと明かし、「きょうもニコ生(会見をライブ配信したニコニコ生放送)見てるよみたいな感じでした」。

 両者をつなぐのは、仲の良さだけではない。現在2冊ずつ刊行された小説を読むと、人間の肉体への飽くなき執着が感じられる。

 遠野さんの芥川賞受賞作『破局』はラグビー部OBの筋肉質な男子大学生が、文芸賞受賞作『改良』はメイクや女装をする青年が主人公。虚無的な文体で、いずれ一個の肉体でしかない人間の不気味さを描く。

 一方、三島賞と文芸賞の2冠となった宇佐見さんの『かか』は、母娘の愛憎をとおして女という肉体に生まれた切なさをつづる。続く新刊『推し、燃ゆ』は、現実の生きづらさを〈肉体の重さ〉に託し、そこから自由になるためにアイドルを応援する少女の物語だ。

 情報化の果てに身体性が希薄になったと言われた時代は、もはや過去なのか。新世代の二人から、目がはなせない。(山崎聡)=朝日新聞2020年10月7日掲載