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「正倉院宝物の輝き」 宝物めぐる歴史やエピソード、多分野の専門家が詳しく解説

「模造 螺鈿紫檀五絃琵琶」

 奈良・東大寺の正倉院におさめられた宝物をめぐる歴史やエピソードを紹介する『正倉院宝物の輝き』(里文出版)が刊行された。大橋一章(かつあき)・早稲田大学名誉教授(東洋美術史)ら19人の美術史、書道史、仏教史の専門家が、異国情緒あふれる調度品や楽器など代表的な宝物を詳しく解説する。

 正倉院宝物は奈良時代の聖武天皇(701~756)の遺愛品を、光明皇后(701~760)が東大寺の大仏に献納したことに始まり、調度品や楽器、武器・武具、文書など約9千件が伝わる。宝物の一部は中国や朝鮮などから伝来したとされるほか、原材料に東南アジアやインドなどで産出したとみられるものも含まれるなど豊かな国際性も大きな特色だ。

 同書は全32章と総論、付論、史料で構成され、計400ページ余り。装飾の美しい螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)やハープの一種の竪箜篌(たてくご)▽囲碁の碁盤の木画紫檀棊局(もくがしたんのききょく)▽双六(すごろく)盤の木画紫檀双六局▽織田信長も切り取らせたとされる天下の名香、蘭奢待(らんじゃたい)▽女性が樹下にたたずむ姿が描かれた鳥毛立女屛風(とりげりつじょのびょうぶ)▽伎楽(ぎがく)面▽ガラス製品▽光明皇后の楽毅論(がっきろん)などが紹介される。

 また、正倉院宝物は大仏に献納された宝物の目録(リスト)である「東大寺献物帳(けんもつちょう)」が残されていることで重要性を高めており、「国家珍宝帳(こっかちんぽうちょう)」「種々薬帳(しゅじゅやくちょう)」など計5巻にわたって約1300年前の宝物の名称や寸法、重量、材質、技法などが記録されている。こうした文献資料と実物とを照合できることは世界的にも珍しく、今回、5巻すべての全文によみ下し文と詳細な注を付け、宝物の全体像を理解しやすくした。(塚本和人)=朝日新聞2020年10月21日掲載