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長井短さん「内緒にしといて」インタビュー 「自己肯定感の手綱」を自分に取り戻せ!

文:北村有、写真:有村蓮

武装しなくても、在るがままでいい

――演劇モデルとして舞台やドラマで活動しつつ、ファッション誌でモデルとしても活躍されていますね。2016年頃にはバラエティ番組を主に「ネガティブキャラ」として注目されたのも記憶に新しいです。長井さん自身が自己肯定感を保つために心がけていることはありますか?

 私の場合、自己肯定感がグラッと揺らぐ瞬間が明確にあるんです。InstagramやTwitterなどのSNSで、同年代かつ同業の子たちがすごく上手に告知をしていたり、カッコいい投稿をしていたりするのを見たとき。もう、ダメですね……。

 「ああ、私はダメな奴だ~!」と思ってしまったときは、「無理にカッコつけなくても人前に出られる私ってスゴい!」って思考にサッと切り替えます。

 おしゃれな姿でSNSにいる人が羨ましいけど、でもそれができない自分って、言い換えればおしゃれ武装しなくても公の場にいられるってことだから。それはそれでかっこいいじゃん?って考えるんです。

 SNSでカッコつけないと公の場に出られない人もいる中で、私は、わざわざそういった鎧をつけなくても人前に出られる。何もしないでいられる自分って、ものすごく自信があるってことだから。「武装しなくても、在るがままでいいんだ」って気持ちでいると、自分のダサいInstagramの投稿も不思議と光って見えるんですよね。そうすると、自分のズボラなところもカッコいいものとして扱えるようになります。

――瞬時に考えを切り替えられるようになった”きっかけ"があったんでしょうか?

 言わば「自己肯定感の手綱」を他人に握らせていた時期は、「モテたい!」「相手にしてもらいたい!」って気持ちが強かったんですよね。やっぱり楽だし、手っ取り早いから。

 でも、自分自身の価値判断を他人に任せていたら、自分の思う評価に周りがついてこないんですよね。「私は私のことを結構良いと思っているのに、意外とみんなハマってない感じ?」「そりゃあの子のほうが可愛いかもしれないけど、絶対に私といたほうが面白いじゃん!」って、もう、ムカつきすぎちゃって。

 「私の面白さもわからないような奴に、手綱を握らせていられない! 返せ!」って吹っ切れた瞬間があったんだと思います。それから自分自身を、しっかり自分の目で見られるようになったんじゃないかな。

――なかなか自分の価値を自分で信じられない方も多いのでは、と思います。

 やっぱり「可愛い」「カッコいい」「モテる」っていう目標はわかりやすいし、みんな優勝を目指して狙いに行きますよね。自分を評価する軸が、表面的なモノサシしかないように思えてきちゃう。

 でも、本来はそれだけじゃないはずなんですよ。たとえば私だったら、子どもの頃にやっていたドッヂボールや鬼ごっこが最高に上手だった。「私の仕切るドッヂボールや鬼ごっこは一味違う!」「その領域では誰にも負けない!」って揺るぎない自信があったんです。

 わざわざ「可愛い」とか「モテる」とか競争率の高いゾーンに行かなくても、他に敵はいないような分野を自分で作っちゃえばいい。可愛くなくてもモテなくても、鬼ごっこやらせたら私がナンバーワンだし!って。

 それを飲み会の場で言っても、わかってもらえないかもしれません。だからこそ表面的な基準だけで自分を見る人も減っていくし、本気で鬼ごっこしたい人だけが周りに残る。オンリーワンな領域で自信を得ること、それと同時に、価値基準を押し付けてくる人を自分の周りから逃がすっていうのも大事なんじゃないかな、と思います。

――長井さんは、具体的にどんな方法でオンリーワンな領域を広げてきたんでしょうか?

 モデルや女優として活動しているのもあり、良くも悪くもビジュアルで判断されてしまいやすい自覚があります。黙って座っていると「クールな人!」と思われてしまいがちなので、自分から見た目以外の情報を提供するように心がけていますね。

 たとえば「すっごくお酒が好きなんですよ~!」とか、わざと安い服を着ていって「これ200円だったんですよ!」とか、自分から言っちゃう。積極的に「気を遣わなくてもいいんですよ」とアピールしてましたね。あまりやりすぎちゃうと逆効果なので、バランスが難しいんですが……。

自分を知るための「ニートの時間」

――見た目以外の情報を相手に提供するには、まず自分で自分のことを知ることが大切かもしれませんね。長井さんは、自分を知るために必要なことって何だと思いますか?

 「ニートの時間」ですかね。何もしない、空白の時間。

 私自身、19歳からこのお仕事を始めたんですが、最初の頃は暇で暇で仕方なかったんです。まったくお仕事がない時期は、まさに無の時間。お金さえあれば友人と遊びに行くこともできましたけど、それも叶わずで……。近所のファミレスで6時間くらい時間を潰していましたね。

 そんな「何もしない時間」こそ大切だと思っています。その間に自分がどんなことを考え、何を感じ、どんなものに目が惹かれたのかを覚えておくこと。ただTwitterをボーッと眺めているだけのときも、どんな投稿でスクロールする指が止まるのかを覚えておくこと。些細なことでもあとで思い出せるように、当時は細かく日記をつけていましたね。

――空白の時間に自分が何を感じるか、覚えておくことが大切なんですね。何もしていない状態そのものに、罪悪感を覚えてしまいそうですが……。

 罪悪感の先に待っているのが「ニートの時間」とも言えるかもしれません。「あ~~私、何やってるんだろ……」ってとことん自分が嫌になったあとの時間。なので、いったん罪悪感に襲われることも必要かもしれませんね。

――そんなご自身の状況も含め、すべてを観察する長井さんの「俯瞰力」を感じます。本にも書かれている「大俯瞰」を習得するコツはありますか?

 まったく周りの目を気にしないのって、一部の選ばれし天才だけだと思うんです。やっぱり自分が周りからどう見えているかは気になっちゃう。「気にしない!」と決めて気にならなくなるなら簡単ですよね。

 私自身、ものすごく羞恥心が強いんですよ。「今の言い方、大丈夫だったかな?」とかいちいち気にしちゃうタイプ。その結果、自分を含め周りの状況まで観察せざるを得なくなったんだと思います。羞恥心が行き過ぎたことによって得られた「大俯瞰」ですね。

次回はサービス0の本を

――長井さんは、子どもの頃から本を読むのがお好きだったんですよね。どんなジャンルの本を読むことが多いですか?

 現代作家さんの小説を読むことが多いですね。最近は文芸誌を読むのにハマっています。目当てじゃない作家さんの作品も一緒に読めるのが魅力的で、大好きになりました。偶然の出会いが詰まっている気がします。

――自分で本を出したいという思いは昔から抱いていたのでしょうか?

 小さな頃からずっと本が好きだったこともあって「図書館に自分の本があったら嬉しいだろうなあ……」とか、自分が本を読んで影響を受けたのと同じように、若い子が私の本を読んで考えるきっかけにしてくれたら嬉しいなあ……とか、自然と考えるようになりましたね。『内緒にしといて』は、AM(アム)の連載を始めたあたりから、具体的に考えるようになりました。

 いろいろな方に読んでほしい気持ちもありつつ、あまりに「読んでください!」と宣伝しまくったら鬱陶しがられるんじゃないかな……という気持ちもありつつ。「見つけてくださった方に、そっと読んでもらえたらいいなあ」が一番近しい思いですね。

――次回の本についての構想があれば教えてください。

 『内緒にしといて』は初めての本ということもあり、タレントっぽいサービス企画を多めに入れた面もあります。正直なところ、そうしないと読んでもらえないかもしれない……と懸念する気持ちがあったんです。次回出せるとしたら、そういったサービス0の、硬派な本を出したいなと思いますね。