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イジメ教師は許さない! 栗原正尚「制裁学園」(第124回)

 今月、マンガ界の長老・藤子不二雄Ⓐは87歳の誕生日を迎えた。数あるヒット作の中でもとりわけ記憶に残る作品に、1972年から「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)で連載した『魔太郎がくる!!』がある。

 友愛学園中等部に転校してきた浦見魔太郎はひ弱でおとなしい典型的なイジメられっ子。しかし限界を超えたイジメを受けると堪忍袋の緒が切れ、超常的な魔術を使って復讐する。そのとき身につける「バラ模様のシャツと黒マント」はまがまがしいインパクトがあり、「このうらみ、はらさでおくべきか!」という呪いの名セリフは流行語になった。3月生まれで自身も小柄なイジメられっ子だったという藤子不二雄Ⓐならでは。明朗快活が信条の少年マンガとしては前例のない大胆なテーマであり、毎日忸怩(じくじ)たる思いを抱えていた全国のイジメられっ子たちから圧倒的な支持を集めた異色作だ。連載開始から半世紀近く経った今なお「魔太郎」の名は色あせず、将棋の渡辺明名人のあだ名(愛称?)にもなっている。まさに時代を超えた「イジメられっ子のダークヒーロー」だろう。

 昨年から「グランドジャンプむちゃ」(集英社)で始まった『制裁学園』は、20年以上連載している「怨み屋本舗」シリーズで知られる栗原正尚の最新作だ。小学校を舞台にしているが、主要な登場人物は大人の教師たち。「非公式制裁人」の教師・紙宮航一が立場の弱い同僚をイジメる悪質な教師やPTAに制裁を加えていく。ありそうでなかった設定だが、おそらくアイデアのきっかけは2019年に神戸市の公立小学校で起きた「激辛カレー事件」だろう。紙宮の「他人をイジメる奴はお天道様が許してもこの紙宮航一が許さない!」という決めゼリフも昭和のノスタルジーを感じさせていい。

 教師のパワハラとイジメが横行する区立床加野(どこかの)小学校。新人教師の良竹亜須香と一緒に先輩教師たちのイジメを受ける非正規教員の紙宮は一見ドン臭く、いかにも使えないダメ教師だが、実は「上から派遣された非公式制裁人」という裏の顔を持っていた。彼の任務は学校に害を及ぼす教師やモンスターペアレントに人知れず制裁を加えること。当然ながら魔太郎のように魔術を使うわけはなく、イジメや制裁の手口は極めてリアルだ。紙宮は主に「スマホの隠し撮り」でターゲットの弱みを握り、次々と辞職に追い込んでいく。考えてみると紙宮の制裁はかなり黒くて陰険なのだが、ターゲットとなる教師たちが一切同情の余地のないクズとして描かれるためモヤモヤが残らず、素直に勧善懲悪のカタルシスを味わえる。

 最新第2巻の終盤では悪徳教師が集まる床加野小学校の秘密が明かされるとともに、「家族を教師に殺された」ため制裁人になったという紙宮の過去に疑惑が。夏に発売予定の第3巻が待ち遠しい!