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「キリンの保育園」書評 ひたすら歩きスケッチする強み

評者: 行方史郎 / 朝⽇新聞掲載:2021年07月10日
キリンの保育園 タンザニアでみつめた彼らの仔育て (新・動物記) 著者:齋藤 美保 出版社:京都大学学術出版会 ジャンル:動物学

ISBN: 9784814003334
発売⽇: 2021/06/01
サイズ: 19cm/245p

動物たちに魅せられた若手研究者たちがその姿を追い求め、行動や社会、生態を明らかにしていくドキュメンタリー。ミオンボ林の片隅でみつめたキリンの親仔たちの物語を瑞々しく描き出…

「キリンの保育園」 [著]齋藤美保

 キリンの研究がしたくて大学院生になった著者は、驚くほど無防備な状態で単身アフリカに送り出される。移動のための車もなく、肝心のキリンに巡り合えるかもわからない。
 まずは国立公園のなかをひたすら歩いてキリンを探し、観察して記録に残すところから始まる。先入観を排して現場でデータを集めるのは記者の取材に似ている。先に仮説を立て検証するばかりが科学ではない。
 母キリンがエサを探しにいっている間、残された子たちが一緒に時間を過ごし、見守り役として母親のだれかが残る。この「保育園」をはじめ、本書で紹介されるキリンの生態に驚きはないが、動物の行動を人間の視点で一方的に解釈することは避けようとする謙虚な姿勢がうかがえる。
 興味深いことに、今や野生キリンの専門家として国際的に認められるようになった著者は、個体識別の際、電子機器には頼らず手書きのスケッチを大事にする。車による追跡やセンサーなどをつけるやり方に比べ、データが圧倒的に少ないという不利を自覚しつつ、徒歩で観察する手法に意義や強みを見いだす。
 本書はシートンの名著をはじめ、過去の動物記に敬意を払って「新」と銘打たれたシリーズの1作目。試しに2作目の『武器を持たないチョウの戦い方』(竹内剛著)にも目を通してみると、読後感がまるで違い、著者の個性が垣間見えて面白い。
 小学生のときに世界に分布するチョウを覚えたという2作目の著者の知識はゆるぎなく、論理展開にも隙がない。それに比べ、イルカのトレーナーになりたいと思った時期もあり、大学院で初めて英語の論文を読んだという本書の著者にはどこか頼りなさも漂う。
 であるからこそ、自分にもなれる、今からでも遅くないかもしれないとの思いを抱く。これが本書をシリーズ最初に持ってきたひそかな狙いとみるのはあまりに深読みだろうか。
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さいとう・みほ 京都市動物園 生き物・学び・研究センター研究員。京都大大学院博士課程修了。博士(理学)。