ISBN: 9784794972699
発売⽇: 2021/06/29
サイズ: 19cm/442p
「きみが死んだあとで」 [著]代島治彦
1967年10月8日、ベトナム反戦のデモと機動隊が衝突し、一人の学生が犠牲となる。18歳の「きみ」、山﨑博昭の死は、同世代の多くを闘いに駆り立てた。
以来半世紀余り。かつての若者は「きみ」の記憶を抱いて、どんな人生を送ったか。遺族や友人・先輩など14人への聴き取りは90時間に及んだ。本書は、同名の記録映画に未収録の証言まで収めた完全版だ。
どの証言者の早熟ぶりにも目を見張る。高校時代から漫画雑誌とマルクスが共存し、社会を変えようと闊達(かったつ)に動く。だが「きみ」の死を境に、学生運動は角材とヘルメットで武装し、警察は弾圧を強める。新左翼党派による内ゲバの陰惨な暴力も、他人事(ひとごと)ではなかった。やがて自分たちを「使い捨て」にする組織の論理との葛藤の末、運動から離脱していく。その間の迷いや悔悟は、当事者の内面を明かす貴重な語りだ。
要領の良い生き方を拒んだ以上、その後の歩みは平坦(へいたん)ではないが、70歳を過ぎても批判精神は衰えない。自己のエリート性の限界を知る余裕も生まれた。
他方で、職業革命家となった先輩からは、「きみ」に続く若者を死に追いやった責任の自覚はついに聞かれない。「きみ」の最後の目撃者も、衝突の瞬間を語れるようになったのは最近のこと。あの時代の記憶は、なお埋葬できていない。
この種の本は感傷に流れやすい。本書では、年長者である元東大全共闘代表の山本義隆や、逮捕者の救援運動を手がけた水戸喜世子の証言が、団塊世代の視野を相対化する。映画にはない元日大全共闘議長の秋田明大(あけひろ)への取材記録も、安易な英雄視を許さない。
失敗にまみれた「後味の悪さ」を、「忘れないで、生き抜いてきた」人々の声を聴くこと。学生運動にとどまらず、多くの「きみ」を見殺しにしてきた社会が自ら変わるには、それが最低限の条件ではないか。映画「三里塚に生きる」以来、この監督はそう訴えてきた。
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だいしま・はるひこ 1958年生まれ。映画監督、映画プロデューサー。監督作品に「三里塚のイカロス」など。