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「インスタグラム」書評 10億人アプリの空恐ろしい内幕

評者: 宮地ゆう / 朝⽇新聞掲載:2021年08月28日
インスタグラム 野望の果ての真実 著者:サラ・フライヤー 出版社:ニューズピックス ジャンル:産業

ISBN: 9784910063188
発売⽇: 2021/07/09
サイズ: 19cm/461p

「インスタグラム」 [著]サラ・フライヤー

 世界で10億人の利用者がいる画像投稿アプリ「インスタグラム」。日本でも3千万人以上が使うこのサービスの誕生からフェイスブック(FB)による買収、そして現在に至るまで多くの関係者への取材で描く。だが本書のもう一つの面白さ(と怖さ)は、この会社に支配される人間の姿だ。
 インスタグラムが注目を浴びたのは2012年。創業2年の会社をFBが約10億ドル(約1100億円)で買収したときだった。
 だが、競争ばかりのザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)に対し、インスタグラムのシストロムCEO(当時)は、オフィスのゴミ箱すら許せない美的感覚の持ち主。水と油の2人は、会社の方向性を巡ってもことごとく対立する。この本は、似て非なる会社の確執の物語でもある。
 他方、利用者が億の単位で増えるに従って、インスタグラムは人の生活を変え始める。写真を投稿しただけで人生が変わってしまった人たちの話には事欠かない。4億人のフォロワーがいるインスタグラムの公式アカウントで一度紹介されれば、スポンサーが殺到。インフルエンサーという「職業」が生まれ、1回の投稿で約1億円を稼ぎ出すセレブもいるという。
 逆に、インスタグラム側が画面の表示順などをわずかに変えるだけで、大打撃を受ける会社も出てくる。さらには、きれいな自撮り写真を投稿する重圧に悩まされる高校生、他人の投稿と自分の生活を比べて精神を病む若者たちの話に、空恐ろしくなるのは私だけではないだろう。
 利用者が目にするものがいかに巧妙にコントロールされているか、本書は詳細に明かしている。普通の投稿に見せかけた広告が出回り、加工された写真の氾濫(はんらん)で人は何が本物か偽物かすらわからなくなってゆく。
 やれることは二つに一つだ。このアプリから足を洗うか、危うさを承知の上で使い続けるか。かく言う私はまだ削除できずにいる。
    ◇
Sarah Frier 米ブルームバーグ誌シニア記者。サンフランシスコを拠点に活動。本書が初の単著。