2021.10.02

「結婚してから同じ布団で寝てません」インタビュー　セックスレスに夫婦で向き合う日常を漫画に

『結婚してから同じ布団で寝てません』（オーバーラップ）より

一番自分が悩んできたことを漫画に

――『結婚してから同じ布団で寝てません』はセックスレスがテーマですが、なぜこのテーマに決めたのですか？

　一番自分が悩んできたことを漫画で描きたいなと思っていました。悩んだ分だけ、いろいろ思考の変化もあるし、いろいろな人に共感してもらえるかなと思って。

　夫婦間で、セックスレスの問題がある程度いい方向に向かい始めて、気持ちの整理がついた頃、この経験をまとめたいと思って、描き始めました。

――キャッチーなタイトルでいいなと思うんですけど、どう決められたんですか？

　セックスレスの話であることが伝わるタイトルがいいなと思ったのですが、同時に本屋で手に取りやすいタイトルがいいなと思ったんです。表紙の絵もあんまり「セックスレス」というイメージがあまり強く出すぎないような、日常の話というイメージを重視しました。

――この本で印象的だったのが、夫のぽちおさん目線からのページ。セックスレスの問題を女性側からではなく、男性側からの目線で描いています。これはぽちおさんと対話を重ねる中で、描いていったということですね。

　そうですね。私もこのシーンは思い入れがあります。夫が「あのときこう思っていたんだよね」と話していた話をもとに描いています。落ち込んだ時は漫画喫茶にいって、山盛りのご飯を食べると話していて、なんて可哀想な人なんだろうと思いながら（笑）

――読者の方からはどのような反応がありますか？

　皆さん、私の想像以上に、本当にいろいろなことを感じ取ってくださっています。夫婦のセックスレスの話ですが、そうではないところ、例えば「会話のコミュニケーションを取る大切さに気づかされた」などと言ってもらうこともあって。嬉しい反応ばかりです。

　中には、個人的な悩みを打ち明けてくださる方もいます。でも、この本を読んで「ちょっと気持ちが楽になりました」と。それもすごく嬉しかったですね。

――実際に本になって、ぽちおさんの反応はどうですか？

　「すごい！　すごい！」と、喜んでくれています。嬉しいですね。ちなみに、義理のお義母さんがたくさん購入してくださって、近所で配っていらっしゃるようです（笑）

なかなか話せないテーマだからこそ

――漫画の中でも描かれていますが、やはりセックスレスの問題はなかなか話せないし、ひとりで悩みがちなトピックですよね。

　そうなんですよね。私自身、夫婦で話し合うしかないということに気づいたのは、だいぶ後のこと。ひとりで悩むと、不安な気持ちがどんどん大きくなってしまい、ついつい相手を責めてしまったりします。

――漫画を描く中で、傷つけられた言葉を思い出す作業も必要だったと思います。

　そうですね。どうしてもテーマを突き詰めていくと、自分の負の感情が出てきて。相手を責め立てるような言葉でしかアウトプットされないときもありました。多分、私の中で完全に消えていない気持ちが出てきたんでしょう。それを冷静に漫画の表現に落とし込むのは、大変ではありました。

　でも、日常生活のくすりと笑えるギャグシーンは、すごく楽しく描けましたね。

――確かに、深刻なシーンもあるのですが、全体的な読後感としては、ほっこりとしたシーンが心に強く残るかもしれません。ちなみに、漫画の中には、ぬーみんさんのお友達も出てきますよね。あれは実在する方々ですか？

　いいえ、何人か組み合わさった人格ですね。友達と恋愛の話や子どもの話をするなかで、さらっとセックスレスのことが話題にあがることがあって。子どもがいる友人からは「マンネリ夫婦の妊活なんて、正直、作業」というようなことを言われ、独身を謳歌してる友人からは「なんで結婚したの」と言われ。それに、ただ結婚しただけの私。どうしようという気持ちがずっとあったんです。

夫と向き合ってよかったこと

――アラサー女性は、結婚・出産、そしてキャリアとライフステージがいろいろと変わり、学生時代に仲が良かった友人と急に話題が合わなくなったりして、戸惑うこともあると思うんです。その点、ぬーみんさんはどうでしたか？

　もちろん、経験はありますね。でも、どんな生き方を選んだとしても、その人がこれでよかったと思えればいいと思うんです。子どもができたとか、彼氏と別れたとか、話を聞いても、なんか幸せならいいなって。自分で納得できる人生ならいいと思います。

――すごく優しいですね！どうしても周りと比べてしまって、つらくなることはないのですか？

　いやいや、私も周りと比べる気持ちもありましたし、それでつらい思いをしたことはありますよ。でも、夫はマイペースで、我が道を行くタイプなので、夫と出会って結構気が楽になったのかもしれないです。別に他人と比べなくてもいいかと思えるようになりました。

――この本で、ぬーみんさんはぽちおさんと向き合うことを決めますよね。改めて向き合ってよかったなと思った瞬間はどんなときでしたか？

　夫と話して良かったのは、まず2人でセックスの話ができるようになったこと。それから、実は僕も悩んでいたという話を聞いたときは、嬉しかったですね。それぞれ悩んでたことを言えずにいただけだった。前は「私ばかり」という気持ちがあったんですけど、私だけではなかったんだと思えて。

　子どもがほしいとか、セックスができないとか、夫がそんなに焦っているなんて、知らなかったんです。「気持ちを打ち明けてくれてありがとう」と言われた時に、ひとりで悶々と溜め込んでいた思いがスーッと流れましたね。

――改めてこの本はどんな人に読んでほしいと思いますか？

　セックスレスに悩んでる夫婦やカップルの方はもちろんですし、これから結婚を考えているけれど、ちょっとセックスレス気味で悩んでいたり、うまくいかないなという気持ちを抱えている方だったり。かつての私がそうだったように、誰にも言えない気持ちを抱えている方に読んでほしいと思います。

次は「義母」をテーマに

――ところで、ぬーみんさんが漫画を描き始めたきっかけを教えてください。

　もともと絵を描くのは好きだったのですが、漫画自体は3年前ぐらいから描いています。最初は、夫との暮らしの中で起こった何気ないことを日記感覚で描いて、誰かに共感してもらうために、Instagramで載せ始めたんです。そうするうちに、もっと描きたいという気持ちが出てきて。noteやTwitterでも発信を始めました。

　はちみつコミックエッセイ編集長の松田（紀子）さんが「コミックエッセイ描き方講座」を主宰されているのですが、その講座を受講したんです。最終課題として、10ページほどの作品を発表するのですが、そこでグランプリをいただきました。そして、松田さんにもご協力いただいて、出版に至りました。

――そうなんですね。自身の体験を描くコミックエッセイというジャンルはもともとお好きだったのですか？

　はい。すごく好きです。たかぎなおこさんや益田ミリさんの本はもうずっと読んでいました。特に、たかぎなおこさんは、ご自身の生活の様子を描かれていて、「楽しそうでいいな。私もそういうことを描きたいな」という気持ちがありました。

――実際描かれてみて、最初からうまく描けるものですか？

　いやいや、なかなか最初は描けなくて。「どこに行った、楽しかった」といった小学生の作文のような感じで終わってしまいました。でも、松田さんに教わってから、徐々に描けるようになった気がします。

――最後に、今後、どんな作品を描いていきたいかを教えてください。

　はい、実は次の話も考えていて。ぽちおのお母さん、つまり私の義理のお義母さんのことを中心に描きたいと思っているんです。

　年齢を重ねるごとに、やらなくなることとか、諦めることとかがいっぱい出てくると思うんですけど、義理のお義母さんは、年齢関係なくいろいろなことをやっている。彼女の姿に影響されて、いろいろポジティブになれるような作品を考えています。