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もし、男女逆になったら 小説「ミラーワールド」「君の顔では泣けない」刊行

(左)君嶋彼方さん=KADOKAWA提供、(右)椰月美智子さん=ホンゴユウジ氏撮影

 母方の親戚に不幸があり、不祝儀袋に自分の名前を書こうとしたら、母に「離婚したと思われる」とたしなめられ、夫の名前を書いた。作家の椰月美智子さんが、つい最近経験したことだ。

 「結婚してから、何かおかしいんじゃないか、と思うことが増えた」。そんな違和感をきっかけに、『明日の食卓』『さしすせその女たち』で男女間の不平等を描いた。これにつらなるのが、『ミラーワールド』(KADOKAWA)だ。

 描いたのは「女尊男卑」の社会。妻の横暴に閉口する主夫、「婿舅(むこしゅうと)」問題に悩まされる婿、女性優位の社会に疑問を持たない専業主夫。子どもが同じ中学校に通う3人の男性が主人公だ。

 「『女男』と書くのに慣れずに、何度も変換ミスをしました。(「男女」の並び順は)ほんとうにすり込まれていますね」。単に男と女を逆にするだけではうまくいかない難しさも感じたという。「(男女差別は)生まれ持った体格差に起因しているというか。女性より強いというところに(男性は)すごく甘えている気がしています」

 希望を託したのは、子どもたちの感覚だ。作中のある女子中学生は、男子中学生を中傷からかばおうとする。

 「いまの時代の子どもたちは、私とはもう感覚がちがっている。自分の子どもからも、あまり男女差別的なことは思っていない印象を受けます」

 君嶋彼方(きみじまかなた)さんのデビュー作『君の顔では泣けない』(KADOKAWA)は、高校生の男女の心と身体(からだ)が入れ替わる物語。心は男性のまま女性の身体で生きることになった男子生徒の視点から、元に戻れないまま過ぎる15年間を繊細な筆致で描く。

 男性とのセックス、結婚、出産。いつ元の身体に戻るかわからないという状況から生まれる独特の緊張感が、何げない日常から人生の節目にまでつきまとう。

 「15年という歳月を書くのであれば、男として女として生きる上での変化を書かないとな、と。女性として経験していくことも、中が男だというだけでいろいろと変わってくる部分があると思った」

 小説野性時代新人賞の受賞作。選考委員の辻村深月さんは「描写のひとつひとつの奥に、私たちが普段少しずつ感じている『自分という存在』への違和感や生きにくさに通じる感覚がある」と評した。=朝日新聞2021年10月6日掲載