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彩瀬まるさん「新しい星」インタビュー 悲しむ人と、ともに無力さに耐える

彩瀬まるさん

 彩瀬まるさんの『新しい星』(文芸春秋)は、大学時代、合気道部に所属した男女4人のままならない人生を描く連作短編集だ。それぞれがちがう悩みを抱えながら、互いにそっと寄り添う。

 青子は、産後すぐに子どもを亡くした。同じ地球なのにそれまでとはまるでちがう「新しい星」に突き落とされたように感じる。友人の茅乃はがんを抱え、娘との距離の取り方に悩む。

 彩瀬さんは15歳のときに、母をがんで亡くした。長年の闘病の末だった。「その体験が、私の中に混乱として残っていた。年齢が近づいた今、母にどんな言葉をかけられるのか、考えてみたいと思った」

 友人だからといって病を治すことはできない。「でも、悲しみや苦痛に人生をのっとられず、ともにその無力さに耐え続けることには意義があってほしい」

 「無力さ」は自身のキーワードでもある。5歳から2年間住んでいたスーダンでは、車で送迎される自分と、路上にいる同年代の地元の子どもたちとの間に埋められない格差を感じた。闘病を続ける母の、日々の態度の変容に無力を感じるだけでなく、戸惑いもした。思春期の支えは、かばんにいつも入っていた小説だった。

 2010年「花に眩(くら)む」で作家デビューした。書く側になって、物語のイメージは変わったという。「主人公が自分で問題を乗り越えて変化していくのが典型的な物語の型だと思っていた。この10年、模索を続けるうちに、外部に助けを求める、援助を受け取ることも大きな冒険だと気づいた。問題の所在を個人に固定せず、視野を広げて考えるべきだ、と」

 「新しい星に突き落とされる人は、決して珍しくないはず。その星で奮闘することは、何も恥ずかしくない」と彩瀬さんは言う。今作を読み終えて感じるのは、絶望ではなく、希望のささやかな光だ。(興野優平)=朝日新聞2022年1月29日掲載