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映画「桜のような僕の恋人」中島健人さん&宇山佳佑さんインタビュー  「あなたに好きになってもらえるように変わりたい」と思えるほどの恋を

運命的だった原作との出会い

――中島さんは本作の原作に運命を感じたそうですね。

中島健人(以下、中島):2019年の夏に恋愛小説を求めて書店を巡っていた時、たまたま立ち寄ったお店で見つけました。『桜のような僕の恋人』というタイトルに一目ぼれして「絶対に読まなきゃ!」と本能的に思ったんです。元々、宇山先生の『今夜、ロマンス劇場で』(集英社)も大好きだったので、「あの作品を書いている人と同じ先生なんだ」と知ったときは運命を感じました。

――実際に読んでみて、どんなところに惹かれましたか?

中島:まず、1ページ目の「桜を見ると思い出す」から始まって「桜のような恋人の君を」で終わる晴人の言葉がすごくロマンチックで、「なんて美しくて詩的な表現なんだ」と思いました。その部分を読んだ後はもうページをめくる手が止まらず、一気に読みました。僕はベッドの上で読み終えたんですけど、気づいたら涙でシーツがびしょ濡れになっていました。

――ヒロインの美咲は人の何十倍もの早さで老いていくのですが、宇山さんがこのテーマで物語を描こうと思った理由を教えてください。

宇山佳佑(以下、宇山):人間にとって「老い」というのは絶対に避けられないもので、「若さ」を奪われてしまうことは万人にとっての宿命だと思うんです。しかも美咲は人よりも圧倒的にその早さが違う。そんな宿命を生きる中で得られるものや彼女が感じる時間の意味、重さみたいなものを描きたいと思ったんです。

――晴人と美咲の視点が交互に入れ替わって物語が展開していきますが、執筆中、晴人と美咲のどちらに感情移入することが多かったですか?

宇山:晴人の視点で書いているときは晴人の気持ちで書くし、美咲を書くときは彼女の気持ちで書くんですけど、美咲の視点で書いている時の晴人のセリフは、僕自身が言われたい、言ってくれたら嬉しいと思うような言葉が出てきますね。この物語は美咲が病気によって姿が変わってしまうということに対して、晴人が「どんな姿になっても君のことが好きだ」という気持ちがすべてだと思うんです。それは別に計算ではなく、晴人にそういう言葉を純粋に言ってほしかったという感覚です。

――晴人を演じるにあたって、中島さんは深川(栄洋)監督からどんなアドバイスを受けたのですか。

中島:初めに深川監督から「より内向的に晴人を表現してください」という演出指導を受けたのですが、僕が読んだ小説の晴人は映画の脚本よりもう少し爽やかな印象だったので、そのギャップに少し悩みました。自分の思っている晴人と、監督の考える晴人を折衷して混ぜ合わせていくのが大変なところでした。

――宇山さんは映画をご覧になっていかがでしたか。

宇山:初めて試写を見た時に、自分が小説で描いた「まっすぐだけど、ちょっと頼りない晴人」と、中島さんが演じる晴人が非常に近かったんです。いつもTVで拝見しているキラキラでカッコいい中島さんとはまた違う一面が見られて驚きました。

中島:撮影期間中、美咲さんと会えない日が何日かあったのですが「大好きな美咲さんに1週間も会えないって辛いだろうな」と思ったので、美咲役の松本(穂香)さんと1日1枚、お互いの写真を撮って、その写真をファイルに入れて持ち歩き、役の気持ちが離れないようにしていました。

 監督から「恋愛を知らない小学生のような感覚で美咲さんに接して欲しい」と言われたとき「やべぇ、俺ちゃんと恋愛知っているかな」って思ったんですけど(笑)。そういうピュアな気持ちに自分自身が巻き戻るために、撮影期間中はできるだけスマホも見ないようにして、余計な情報は遮断していました。

宇山:そういう細やかな役づくりへのアプローチはすごいなと思います。脚本を読んで、その中で消化して演技にしていくのではなく、オリジナルのアプローチを入れるというのは本当にプロフェッショナルだなと思いますね。

涙が止まらず、倒れこんだ

――自分の病を知った美咲は美容師の仕事を辞め、一方的に晴人に別れを告げます。中島さんは撮影前に原作を読んでいるので結末を含めた展開をご存知ですが、映画で演じる晴人は美咲に何が起きたのか知らないんですよね。

中島:僕はゼロの状態で脚本を読みたかったので、一度小説の記憶を全部消したんです。それに僕と松本さんの脚本はお互いのところが全部空白になっていたので、美咲さんが晴人と別れた後にどういう時間を過ごして、どう生きたのかを想像していました。ありがたいことに、ストーリーと並行して撮影が進んでいて、最初にデートなどの楽しいシーンを撮ってくださったから、僕も晴人の心情とリンクして後半にかけての気持ちの変化を自然とつかむことができました。

――相手の部分が空白になっている脚本というのは他にもあるのですか?

宇山:一部が空白になっている脚本というのは、僕も脚本家をしていますが、初めて聞いた例ですね。脚本というのは設計図であって、それを「家」として作ってくれるのは役者やスタッフの方々なので、そこにオリジナルのアプローチや、情熱、魂みたいなものを込めなければ、いい作品はできないと思うんです。中島さんや松本さん、監督も含め、本作に携わってくれた方々がそういうアプローチをしてくださったおかげで、物語がより豊かになり、作品に彩を与えてくれたと思います。

――美咲の病気のことを知り「どんな姿でも君が好きだ」と思う晴人と、「好きだけど、会いたいけど、老いた自分の姿を見られたくない」と葛藤する美咲の姿には、見ている方も胸が締めつけられました。

中島:「ここからは切ない時間が始まっていく」という、この作品のターニングポイントになるシーンですね。撮影中、会えなくなった美咲さんへの思いが僕の中で急に大きくなって、カットがかかっても涙が止まらず、その場に倒れこんでしまったんです。それぐらい「自分も美咲さんを強く思っていたんだな、ちゃんと心を削れていたんだな」という事に気づきました。

 終盤のシーンの撮影が近づくころには、僕の中で小説を読んでいた時の記憶が一気に戻ってきて感情が爆発しそうになり、「晴人としてちゃんと撮影できるのか」という怖さもあったんです。でも、ここに至るまでの晴人に同調しないとラストに辿り着けないと思っていたし、元々この作品に対しての愛が僕自身にすごくあったので、かっこいいこと言うと、「その愛があれば何も怖くない」と思って撮影に臨みました。

こんな風に誰かに思われてみたい

――宇山さんといえば、今回の『桜のような僕の恋人』をはじめ『今夜、ロマンス劇場で』『この恋は世界でいちばん美しい雨』などで切ない純愛を描き、若い世代から支持を受けていますよね。

宇山:ご支持いただけていることは本当にありがたいです。これはあくまでも僕の意見ですが、例えばどんな苦しい状況になったとしても、「自分のことを一番に考えて、支えてくれる人がいたら」という気持ちや、「こんな風に誰かに思われてみたい」という根源的欲求って、きっと多くの方にもあるのかなと思います。「大切に思われたい」って純粋な気持ちだと思うので、そういった思いが僕の本と共鳴するのかもしれませんね。

 ただ、僕自身は今まであまり多くの本を読んでこなかったんです。でも高校生のころは馳星周さんの麻薬や拳銃が出てくる話を一生懸命読んでいました(笑)。特に影響を受けたのは村上春樹さんですね。『ノルウェイの森』(講談社)を読んだら、すっかり思考が村上春樹になってしまって(笑)。その文体に、訳の分からない魅力を感じたんです。思春期に触れてはいけない作品だったなと思います。

――最後に、映画の見どころを教えてください。

中島:「あなたに好きになってもらえるように変わりたい」と思えるほどの人と出会って、人生を変えるような恋をした晴人を、僕はとても羨ましく感じました。あと、これは晴人と美咲さんの物語でもあるけど、美咲さんとお兄さんとの物語でもあるんですよね。病気になった美咲さんを一生懸命支えるお兄さんと、お兄さんに心配をかけたくない美咲さんの気持ちが痛いほど伝わってきたし、二人の絆があまりに強くて、最初は「この兄妹の中に晴人は入っていけるのかな?」ってちょっと不安に思ったくらい。僕は一人っ子なので、兄妹愛って美しいなと思いました。他にも色々な人の物語が交差していくので、注目していただければと思います。