ときに残忍な事件の被告も守る。薬丸岳さんの新刊『刑事弁護人』(新潮社)は、弁護士の葛藤と矜恃(きょうじ)を描いたミステリー小説だ。
マンションの一室で、頭から血を流した24歳のホストが遺体で発見される。殺人容疑で逮捕されたのは、現役の女性警察官だ。しかし彼女は殺してはいないと訴える。
彼女の弁護に、対照的な男女がタッグを組む。被告人に寄り添う人権派弁護士の持月凜子(もちづきりんこ)。相棒の西大輔は訳ありの元刑事だ。ぶっきらぼうで、冷淡、法廷では被告人の不利益になるような尋問もしてしまう。「犯罪者を憎みながらも弁護士になったこのキャラクターとなら、今までにないリーガルミステリーを書けると思った」と薬丸さん。
裁判に向けた準備が進むうち、被告がうその供述をしていたことが明らかになる。一人息子を亡くした被告の過去、ホストクラブ通いの理由……。不可解な点が次第につながっていく。
2005年、少年犯罪を主題にした『天使のナイフ』で江戸川乱歩賞を受賞してデビューした。以来、刑事弁護人に関心があった。「重い罪を犯した人を擁護する弁護士にネガティブな印象を持っていた。でも取材を重ね、社会になくてはならない存在だと気付かされました」
凜子には、弁護士だった父親を事件の被害者遺族に刺し殺された過去がある。それでも父の遺志を継ぐ。そんな凜子に西は問いかける。「もし、お母さんが殺されたら、おまえはその犯人を弁護できるか?」。警察官として被害者やその家族と接してきた西もまた、やりきれない過去を持っていた。
最後まで何かを隠しているように見える被告、遺族の憎しみ、弁護人の使命感――。それぞれの心情が交錯する。「人が罪をどう捉え、受け止めるのかを描きたかった。人の心こそ、いちばんのミステリーなんです」(田中瞳子)=朝日新聞2022年4月30日掲載