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結城真一郎さん短編集「#真相をお話しします」 10年前にはなかった動機、掘り当てる

結城真一郎さん

 YouTube、マッチングアプリ、リモート飲み会。結城真一郎さん(31)の新刊『#真相をお話しします』(新潮社)は、ここ数年で身近になった道具をミステリーに持ち込んだ短編集だ。「最新のツールによって、人間の欲望が今までにない形で発露している。現代だから通じる動機を書こうと思いました」と結城さんは話す。

 2018年に『名もなき星の哀歌』で新潮ミステリー大賞を受賞し、翌年デビュー。以来、順調に作品を送り出してきた。

 昨年、日本推理作家協会賞短編部門を受賞した「#拡散希望」も本作に収録している。高齢者が多く、子供は4人しかいない島が舞台。そのうちの一人である少年が主人公だ。小学3年生の夏休みに、友人の少女から「一緒にYouTuberにならない?」と持ちかけられる。しかし少年の母親は、その子と「仲良くするのは、考え直した方が良い」とまで言う猛反対ぶりだった。同じ日に、島を訪れたYouTuberの男性が刺殺された。この日を境に島の人たちは子供たちによそよそしくなる。さらに、YouTuberになろうと誘ってきた少女が断崖絶壁から転落死した。

 再生回数を稼ぐために犯罪行為にも及ぶような「迷惑系YouTuber」の存在から、物語の着想を得たという。「視聴回数や『いいね』の数が可視化されることによって、自分の中にあった承認欲求、金銭欲に気付かされる。それが10年前には考えられなかったような動機につながると思いました」

 ミステリー界の新たな鉱脈を探る試みでもある。「ミステリーにはすでに多くの傑作がある。でも、今のツールを織り込むことで、未開のフィールドにたどり着けるかもしれない。往年のミステリーファンから見ても新しい小説を書く挑戦をしてみました」

 収録されている5編はどれも、日常と地続きだ。家庭教師の仲介会社でアルバイトをする大学生が主人公の「惨者面談」は、自身が学生時代に同じバイトをしていた経験をもとにしている。精子提供を題材にした「パンドラ」は、提供を受けた人のツイッター投稿を目にしたことから考えついた。「普通の生活もミステリーになる。身近な道具、シチュエーションであることが、若い世代も本に手を伸ばすきっかけになればうれしいです」(田中瞳子)=朝日新聞2022年7月6日掲載

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