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結城真一郎さん「#真相をお話しします」インタビュー リモート飲みにマッチングアプリ、“今”すぎるミステリー

結城真一郎さん

先人たちが絶対に書けないトリック

――今回の短篇集は、リモート飲み会に精子提供、マッチングアプリ、YouTuberなどなど、様々な現代的モチーフが登場しますね。どんな狙いがあったのでしょうか。

 ひとつは、ミステリーで新しい分野を開拓したいという思いからです。先人たちの素晴らしい作品がありすぎて、完全に新しいトリックとか動機とかを作り出すのは難しいんですよ。どうしても昔のトリックの焼き直し、組み合わせの違いくらいになってしまって。だったら、その時代の人たちにはどうあがいても書けないことを書こうと思ったんです。YouTuberとかマッチングアプリとか、ここ10年で出てきたことは、それ以前の作家さんは物理的に書けないじゃないですか。

――なるほど、それはすごい発明ですね。

 どんな犯罪も、根底には承認欲求とか金銭欲とか、普遍的な人間の心理があると思うんです。ただそれが、YouTubeとかマッチングアプリとか、新しいプラットフォームを与えられると、今までにない形で可視化されることになる。そこに、まだ掘り当てられていない鉱脈があると思いました。

 もうひとつは、普段本を読まない人たちにも自分の作品を届けたいと思ったんです。リモート飲みとかアプリとか、その人の身近なものが題材になっていれば、手に取ってくれるんじゃないかなって。大学生でも本を読まない人が増えているってニュースで見て、単純にもったいないなって思ったんです。いろんなものを試した結果、読書はつまらないというならいいんですけど、この面白さを知らずにYouTubeとかNetflixに時間を取られてるなら、ちょっとここ見てってよって。

読後の世界を一変させたい

――日本推理作家協会賞(推協賞)を受賞された「#拡散希望」は迷惑系YouTuberの話で、その現代批評の姿勢が高く評価されたそうですね。全文無料公開もされている、この短編集の看板小説です。

 じつはあまり現代を批評しようなんて意識はないんです。ただ、迷惑系YouTuberは自分にとってすごく気になる存在で。視聴率のために犯罪行為までして、それを自ら晒すなんて正気の沙汰とは思えない。でもそれを楽しみにしている視聴者がいて、しかも理性的ぶって「あほじゃん」とか言ってる自分も、いざネットに上がってくると、クリックしてしまっている。そんな自分も含めた歪さが、より進んでいったら、どんなことが起きるんだろう……そこからこの小説ができました。

――本作を読んだ書店員さんからは「リモート飲みが怖くなった」「マッチングアプリをそっと消した」なんて感想も寄せられたとか。

 嬉しい反応でしたね。慣れ親しんだ機器であるからこそ、想定されてない使い方がでてくると、今まで自分の見てた世界が一変すると思っていて。そういう違った見方を与えるのが、読書の醍醐味。いつも自分の小説はそうでありたいと願っているんです。

原点は我流「バトル・ロワイアル」

――結城さんは2019年、『名もなき星の哀歌』でデビューされましたが、ミステリー作家になろうと思ったきっかけを教えてください。

 一番は中学3年の時の卒業文集ですね。僕は中高一貫の男子校出身なんですけど、うちの中学って卒業文集のテーマも枚数も自由なんです。手形をばんっと押して終わり、みたいな奴もいて。そんななか、自分は当時所属していたサッカー部の同級生たちが、高校への進学権をかけて殺し合うっていう『バトル・ロワイアル』のパロディ小説を、原稿用紙600枚分くらい書いて出したんです。そしたら、同級生とかその保護者とかが、「友達をかばって死んだあのシーンはよかった」とか、「うちの子があんなダサい死に方をするのは解せん」とか、盛り上がってくれて。それまで自分は、映画監督とか漫画家とか、漠然と創作する人になりたいと思ってましたけど、そのときはっきり、小説でいきたいって思いました。

――その男子校というのは、進学校で名高い開成高校ですよね。さらにその後、東大法学部に入学。いわゆる超エリートコースなわけですが、小説家を目指すというのは勇気がいる路線変更だったのではないですか。

 それは正直ありました。周りの期待もありますし、自分としてもそのルートにのらなきゃいけないっていう強迫観念みたいなものがあって。だから中3で小説家になりたいと思ってからも、具体的には行動に移してなかったんですよね。それが、大学3年の時、同じ学部の辻堂ゆめさんが「このミステリーがすごい!」で優秀賞を獲って、デビューされて。面識はなかったんですが、同い年でそれをやってのけたことに衝撃を受けて、自分も卒業ぎりぎりに一篇書いて、新潮ミステリー大賞に応募しました。それは落選したのですが、社会人3年目で書いた『名もなき星の哀歌』で同賞を頂き、デビューできました。

既定路線を飛び出していく

――応募2作目でデビューなんて、すごいです。結城さんは現在も兼業作家で本業は別にあるんですよね。推協賞受賞後に顔出しを解禁されたとのことですが、それはなぜですか?

 ようやく既定路線から降りる覚悟ができたのだと思います。10年後にノミネートされたらいいな、くらいに思っていた推協賞を頂いて、いま日の目を浴びつつあるところだと思うんで、やれるところまでやってみようと思って。今まで自分って、ベルトコンベアーにのっけられて主体性がないまま、やってきたんですね。でも、どうなるかわからない未開の地に飛び込んで、もがきながら開拓するっていうのも、小説の分野でならやりたい、やれるって思ったんです。人生ではじめてそう思ったかもしれない。

――自分にも読者にも、これまでに見たことのない世界を見せたい思いがあるんですね。でも、これだけ緻密に伏線が張り巡らされた小説を兼業で書くのは、本当に大変そう。

 正直、きついです(笑)。ありがたいことに、ご依頼いただくことが増えてきて、これまで年単位で練っていた構想も、次々完成させていかなきゃいけなくって。そこはまだまだ修行中ですが、このペースだからこそ、現代を書けるというのもあるのかなと思います。『#真相をお話しします』は、なんとか推協賞の看板に恥じない強度の作品にはなったかなと思うので、たくさんの人に驚いてもらえたらうれしいです。