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櫻木みわさん「コークスが燃えている」インタビュー しんどさ生きるあなた、ひとりじゃない

櫻木みわさん

 39歳のひの子は非正規の契約社員だ。将来の生き方も見えないコロナ禍の中、14歳下の元恋人と再会して思わぬ妊娠をする。未婚で生もうと決心し、応援してくれる女性たちもいたが、試練が待っていた。

 「自分自身がそういう体験をして、初めて味わう感情を書きました。書くことができてよかった」。櫻木さんは静かに語る。

 妊娠、流産の切迫した場面が生々しく描かれ、生む性の直面する切実さが肌感覚をもって迫る。未婚で子育てをしようという覚悟の大きさも。

 櫻木さんは「シングルマザーの友だちに話を聞いたり、ひとり親になって現実的にどう生活できるか調べたりすると、本当に大変なんだと実感した」という。だからこそ、互いに支え合うつながりの心強さが作品ににじみ出る。

 ひの子に経験を話して励ましてくれるのはシングルマザーたち。後半ではエチオピアから来たシングルマザーがしんどい暮らしの中でもてなし、力づける。

 作者と同じく、ひの子は福岡・筑豊の炭鉱町の生まれだ。戦前、戦中にそこで働いた女性坑夫たちの聞き書き集を、ひの子は手にする。苦しい生活で女性たちは助け合って生きていた。その声が時間を越えて響く。「国境を越えた女性たちのつながりも、聞き書き集を通して時間を越えて結びつく存在も出した」

探し当てた「自分の力でつかむ生き方」

 出会った人たちの優しさに触れながらも、やはり自分の生き方は自分の力でつかみとっていかなければならない。前を向く、最後の一文が印象的だ。

 「この小説を書いたからわかった心、たどりつけた一文。自分自身もそういう思いを持つことができて、よかった。自分にとって小説を書くとはこういうことだとわかった一文でした」

 そして、こう話す。「私には子どもがいませんが、子どもを持つ人もそうでない人もみんながしんどさを生きている。いろんな方がこの小説を読んで受けとめて下さったことに、うれしさと驚きがあります」

 櫻木さんは批評家の東浩紀さんと書評家の大森望さんが始めた「ゲンロンSF創作講座」の受講生だった。2018年、東ティモールやラオスなどアジアを舞台にした短編集『うつくしい繭』で作家デビューした。単行本は2冊目だ。いまは滋賀県の琵琶湖近くに暮らし、執筆している。

 「SFスクールから出たのですが、飛躍した想像力の話だけでなく、身近な人や場所の物語を書いていきたい」と言う。「ひとりの中にいろんな世界や歴史がある。土地もそう。外からうかがいしれないすばらしいものがあると思うので、学んで知って書きたい」。滋賀県を舞台にした物語も視野にある。(河合真美江)=朝日新聞2022年7月27日掲載