熱さ、がむしゃらさ、不器用さ
原作者の池井戸さんが「これは青春小説だったのだと、こちらの頭が整理された」と話すほど、原作小説の本質をとらえた脚本だった。ドラマの脚本を多く手がけてきた池田さんは「ドラマが絵巻物だとしたら、映画は1枚の絵。軸をはっきり決めようとプロデューサーにも言われていました」と振り返る。
原作小説では、1970年代前半からの約30年の日本の経済状況を背景に、2人の主人公の成長を少年時代から追っている。「映画では成人して、就職した後の20代、30代の時期を中心にすえています。その年代独特の熱さやがむしゃらさ、ちょっともどかしい不器用な感じが生み出す空気感が、ほかの池井戸作品に比べても際だっていると感じたので、そこを軸にすることは迷わなかった」
ビジネスの世界での2人の友情が物語を引っ張っていく。「原作の中にあるライバル2人の友情にあこがれる思いを脚本に託しました。ライバルでありながら信頼している関係は、女性の目からみると不思議でもあり、うらやましくもあります」
難しい金融の話をテーマにしながらも、2人のライバルの行方を見守ってしまう。「2人の気持ち、感情、思いがどっちに向かっているかがしっかり描けていれば、難しい部分があっても観る方たちはついてきてくれるはずだと信じています」
竹内涼真さん、横浜流星さんをダブル主演に迎え、2人の友情を描く「バディーもの」として完成した。「2人が異なる種類の輝きで、同じくらい輝いていなければならないのが脚本で一番苦労したところです。原稿をいざ書いてみると、どちらか一方が魅力的になりすぎてしまい、何度も書き直しました」
池田さんは、竹内さんが出演するドラマの脚本を手がけたことがある。「どんな演じ方をされるか、どんな声なのかもわかっていたので、アキラが竹内さんに寄っていったかもしれません」。
一方の横浜さんとは初めての仕事となった。「イケメンであることをのぞけば、ふだんは近くにいてもおかしくない普通の男の子のような雰囲気なのに、カメラの前では全部変えられる。ゼロから役柄を作りあげていく人なのだと驚きました」
不良債権処理の仕事の経験も
池田さんが脚本家デビューしたのは2010年。早稲田大学を卒業後、不動産関係の会社に6年ほど勤めていた。「不良債権の処理をお手伝いすることもあり、追い詰められると人間ってこんな恐ろしい面もあるのか、と感じることもありました」
当時の体験と照らし合わせて感じるのは、池井戸作品に通底する人間を讃える信念の強さだった。「倒産などの修羅場での人間の姿を直視した上で、それでも希望を描き続けられるのがすごいことです。絶望を描くより説得力のある希望を描く方が難しい」
大学時代、専攻は金融だった。「20代後半に映画もドラマも詳しくないのに脚本の世界に飛び込んで、今回ようやく大学時代の勉強を仕事に生かすことができました」
10月放映開始予定のNHKの連続ドラマ『つまらない住宅地のすべての家』(津村記久子さん原作)など、文芸作品の脚本を手がけることも多い。「オリジナルと原作ものは半々くらいですね。オリジナルものが上ということはなく、原作ものは書かれた先生と話をさせていただくなど勉強になることが多いのでこれからも楽しく取り組んでいきたいと思っています」