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ニットデザイナー・三國万里子さん、初エッセーインタビュー 書くこと編むこと、未知との出会い

三國万里子さん

 好きな人のことを知りたくて、同じたばこを吸っていた25歳の冬から春。10歳で卒業した人形遊びを、40年ののちに再開した日――。ニットデザイナー・三國万里子さん(51)の『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』(新潮社)は、日常の記憶を物語に編み直した、初めてのエッセー集だ。

 本のタイトルは自分で考えた。3歳で祖母から編みものの手ほどきを受け、趣味として、仕事として、続けてきた。自分を表現するために編んでいるわけではない。編むことで、自分の表現したいものが「形となって、模様となって、現れてくる」。

 書くことも、同じだった。書いているうちに、思ってもいなかった言葉と言葉がつながり、文章が浮かび上がる。体の底に眠っていた言葉が、うごめきだす。「一行書くと違う景色が見えてくる。一段編むごとに色が重なり、風景が変化する編みもののようでした」

 劇的な出来事は描かれない。見落としてしまうような心の動きを、丁寧にすくい取る。「私の生活ってすごく地味なんですよ。ニットデザイナーは家で一人、延々と仕事をする。日常をおもしろがれなければ、おもしろいことってなかなかないんです」

 転校生だった小学生の頃をつづる1編「苺(いちご)」では、新しい場所に慣れることが難しく、何に触れても痛かった当時を回想する。子供部屋で日記に書いた。〈おばさんになったら、もっと鈍感になって、生きることが簡単になるかな。でもそうしたら、生きてるって言えるかな。そうして鈍感になってまで生きる意味なんて、あるかな〉。当時の自分に、今答える。〈生きてみないとわからないことばかりだったし、知らないことを知ることによって強くなった。それを鈍感と呼ぶなら呼んでもいい〉

 編み続けること、書き続けることで、これからも未知の世界と出会い続ける。(田中瞳子)=朝日新聞2022年10月29日掲載