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白井智之さん「名探偵のいけにえ」インタビュー 人民寺院事件をモチーフに「普通でない謎解き」

白井智之『名探偵のいけにえ』(新潮社)

 特異な状況下での謎解き小説に定評のある作家、白井智之さんの新刊『名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件』(新潮社)は、宗教コミューンで起きた連続不審死事件の真相を、大胆な論理で解き明かす本格ミステリーだ。終盤に繰り出される推理の連打が、読み手をカタルシスへ誘う。

 物語の舞台は、次々と奇跡を起こす新興宗教の教祖と信者が暮らす南米の集落。調査に赴いた助手を捜しに探偵が乗り込むなか、調査員たちが一人また一人と不審死を遂げる。人間には不可能としか思えない状況での殺人だが、奇跡を信じる信者たちには不思議でもなんでもなく、真相究明は難航する……。

 2020年の『名探偵のはらわた』では、「津山三十人殺し」などがモチーフの歴史的凶悪事件の犯人たちが現代によみがえり、探偵と頭脳合戦を繰り広げた。評価も高く、姉妹編にあたる本作でも実在事件に範を取ることに。副題から想像できる通りの「人民寺院事件」。1978年、南米ガイアナの宗教コミューンで、900人以上が命を落とした大量殺人とも集団自殺とも言われる事件だ。

 「ある種のクローズドサークルで暮らしていた何百人という人が一夜にして、みな死んでしまった。非常にミステリー的な事件で、その謎を〈嘘(うそ)解釈〉することに興味をひかれた面もあります」

 調査員の連続死と、信者の集団死にはどんな関係があるのか。奇跡を信じる人々に、探偵は論理で立ち向かい、想像を超える多重解決が展開する。A・バークリー『毒入りチョコレート事件』を始めとする多重解決ものが昔から大好きだったという白井さんの得意とする手法だ。

 「同じ手がかりから解釈すれば、普通は同じ推理で同じ犯人に至る。にもかかわらず、手がかりの取捨選択や解釈の仕方によって、違う答えが出てくることがある。非常に不思議だし、不思議であるというのは本格ミステリー的な感覚だと思います」

 少女たちが密室の中でミキサーにかけられたり(「少女ミキサー」)、フナムシの大食いレースで毒殺事件が起きたり(「ちびまんとジャンボ」)、露悪的ともいえる設定のなか、フェアで端正な謎解きを披露するのが白井ミステリーの特徴だが、今回はグロテスクな描写は控えめだ。

 「思いついたアイデアを効果的に見せるにはどういう書き方をすればいいか、作品ごとに気を配っています。本作は閉ざされた空間に探偵と助手がいて、不可解な事件が起きる正統派のミステリーでありながら、普通ではない謎解きの構造を持った物語。本格ものが好きな人にちゃんと届いてくれたなら、本望です」(野波健祐)=朝日新聞2022年11月16日掲載