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ドナルド・キーンの蔵書7000冊、東洋大の学生ら整理プロジェクト 「いつかバーチャル図書館も」

蔵書のデータ入力に取り組む東洋大学の学生たち=東京都北区

東洋大の学生らが整理・調査

 東洋大と北区、ドナルド・キーン記念財団の3者は7月、蔵書を整理・調査するプロジェクトに関する協定書を締結。東洋大が学内で蔵書整理のアルバイトを募集したところ、予定の20人に対して100人以上の申し込みがあり、採用枠を29人に拡大した。採用者のうち2人は中国、韓国からの留学生だという。

 学生たちはシフトを組んで北区が用意した施設に週3回ほど集まり、パソコンを使って図書目録の入力フォーマットに1冊ずつ蔵書の情報を入力。蔵書のあった場所や内容、書き込みの有無などを記録していく。

 アーサー・ウェイリー訳「源氏物語」との出会いをきっかけに日本文学研究を志したドナルド・キーン。蔵書の中にあった日本語版の源氏物語を確認していて「ひらがなで『あはれ』と記したえんぴつの書き込みを見つけ、感慨深かった」と語るのは道幸(みちゆき)茜音さん(22)だ。

 蔵書は文学作品や歴史書など多岐にわたり、「地球の歩き方」のようなガイド本、エッセーを連載していた雑誌なども。オペラのチケットの半券などが挟まっていることもある。

 吉岡綾華さん(19)は司馬遼太郎との対談『日本人と日本文化』(中公文庫)を読んだことが今回のプロジェクトに興味を持つきっかけだった。「古い英書も多く、和書のように奥付がきちんとない本もある。インターネットで検索しても情報が見つからず、難しい」と作業の苦労を語るのは喜多村心香(きよか)さん(20)。鈴木綾乃さん(19)は「学べるアルバイトなので魅力的」と話す。

まずはリスト作り ネットで公開めざす

ドナルド・キーン(1922~2019)

 作業を監修する石田仁志・文学部国際文化コミュニケーション学科教授は「完成した蔵書リストをインターネットで広く公開したい。海外でも注目されると思う」。「書斎のどの場所に本があったかまで記録しているので、後にVR(仮想現実)空間で書斎を再現することも可能になる」という構想も語る。

 「VRと文学という文理融合のプログラミング教育としてキーンさんのバーチャル図書館が将来、実現すれば、すごいと思う」

 浦野芳生・北区地域振興部参事は「キーンさんは北区が誇る偉人。区民の機運を高めていき、将来的に功績をさらに高めていく効果的な手法を検討したい」と語る。

 蔵書整理の作業は24年3月まで行われる予定だ。ドナルド・キーンが残した「レガシー(遺産)」は受け継がれていく。(森下香枝)=朝日新聞2022年12月7日掲載