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ジェーン・スー&堀井美香「OVER THE SUN 公式互助会本」インタビュー “おばさん像”を無視したおしゃべりの先に

「負けへんで」「沖に出る」……番組生まれのキーワード

──サイン本をつくっていたInstagramのライブ配信で、お二人は「互助会員の皆さんに喜んでいただける内容を考えた」とおっしゃっていましたよね。数あるエピソードの中で、どんな話題を意識的に選んで収録されたのでしょうか?

堀井美香(以下、堀井) メールが何百通も届いたテーマがあったので「リスナーさんの反響が多かったエピソードは必ず入れようね」って話しました。あと「負けへんで」とか「沖に出る」とか過去のエピソードで誕生して、いまでも話題に挙がるキーワードも盛り込みたいな、と。

スー (中略)私たちは「悲しい自分でありつつも負けへんで!」っていうのが好きなんでしょ。(中略)
美香 「踏まれたって負けへんで」。
スー そう。雨の日に道を歩いてて、走ってきた車にピシャーッて水をかけられてびしょ濡れになって、「それでも負けへんで!」っていうのが好きなんだよね。

『OVER THE SUN 公式互助会本』(左右社)P90-91より

スー (中略)不安になるぐらいだったら自分を不幸な場所、居心地が悪いところに留めておこうってなっちゃうよねって話を友達から聞いて、まあ、これ中年女がめっちゃ陥りがちだなと思ったの。だから私も、不安を背負(しょ)ってこうと思ったんだよね。不安という名の海に出て。

美香 すごく居心地のいい会社の中にいたので......だから自分でも、いいタイミングで『老人と海』を読んだなあと思っています。沖に出ていったい何をするんだろうとか、ここから沖に出て何かあるのかなって思ったりもしたんですけど、あなたの「骨だけあればいいじゃん、肉なんか食わせてやれよ」っていう言葉で、そうかそうか、昔のおじいさんのやり方で戦って、何の成果もなくて、また60歳か70歳かわかんないけど、岸に戻ってきてもまあいいかなと思えましたね。

『OVER THE SUN 公式互助会本』(左右社)P290-291より

ジェーン・スー(以下、スー) そうそう、何度も構成を練り直しましたね。書き起こしだけになっても意味がないから、載せているエピソードも各回の抜粋なんですよ。「このキーワードを入れるなら、別のエピソードで同じ話をしていたところの書き起こしも入れた方がいいのでは」とか試行錯誤して。自分の単著を書くより100倍大変でした。

堀井 キーワード、ほんとたくさん生まれたよね。(ぼそっと)でも忘れちゃう……。

スー 手応えはあるのに何を話したか忘れちゃう、それがおばさんのおしゃべり!

堀井 互助会本のいちばん最後にエピソードタイトルが並んでいるけど、それ見ても「この回はこんな話をしたね」って全然思い出せないもんね。覚えてないから昔のエピソードって新鮮に聞けるの。「すごい口がまわってるわ」「いいこと言ってんじゃん」とか発見だらけ!

番組から広がる、おばさんの「集合知」

──拝聴していると、お二人の自然な会話から次回のメールテーマが生まれていますよね。テーマは、互助会員の存在を意識して話題を選んでいるのでしょうか?

堀井 メールで反響があったら、その内容を追跡したりなぞったりすることはありますよね。でも普段ほとんど考えていませんね。

スー そうだね。基本は自分たちが話したいことを好きなようにしゃべってる。

──メールテーマを意訳したリスナーから「みんなの閉経物語」や「VIO脱毛情報」が届いたり、お二人が意識せずに選んだテーマが互助会員に刺さるのか「これは私が語るべきテーマだ」という衝動に突き動かされて「初めてメールを送ります」と一歩を踏み出す方も「OVER THE SUN」には多いですよね。そんな風にお二人の話したいことと互助会員の語りたい欲求が交錯していく感じを、どのように受け止めていらっしゃいますか?

スー それが……何も考えてなくて。おばさんの話って、いつもそんな感じでしょう? 誰かが好き勝手に話していて、「それ私も語りたい!」みたいな感じで乗っかって盛り上がっているだけなんで、「この話ならみんな好きだろう」とか考えたこと、一度もないんです。美香ちゃんは何か感じていることある?

堀井 こちらから(互助会員に)当てに行ったことってないよね。ただ私たちがしゃべっていることって、これまでおばさんがオープンにしなかった話題かもしれません。「VIO脱毛情報」しかり「みんなの閉経物語」しかり「中高年での離婚と失恋」しかり。

スー 悠々自適の楽しい感じね。これまでメディアに出るおばさんの振る舞いには「定型」があったと思うんですよ。そこを完全に無視している自覚はあるんですが、新しいことをやっているかと聞かれたらそんなことはない。普段みんなが感じているのにメディアが取り上げなかったことを俎上に載せているだけで。

──メディアがつくり上げる一方的な「おばさん像」を無視して生まれたのが、「VIO脱毛情報」や「みんなの閉経物語」なんですね。

スー そうですね。あと、みんなの話が集まることによって生まれるおばさんの「集合知」が断然おもしろい! 自分たちで話しているだけじゃなくて、会ったこともない、これから顔を合わせるかどうかもわからない遠方にお住まいの方からの手紙やメールのおかげで知り得なかったことを知ったり、理解が深まったりするのがすごく楽しいんですよね。

──番組の中でも、スーさんは次々と集まるVIO脱毛や閉経情報を前に「我々は知能集合体としての精度をかなり上げている」「もはやスーパーコンピュータの富岳」とおっしゃっていました。さらに番組を飛び出して、おばさんリスナーによる知能集合体はLINEオープンチャットに親交の輪を広げています。

堀井 私たちは参加していませんが、読書部に映画部にたくさん部活があるんですよね? 中でも間接的にお聞きした登山部の話が傑作でした。まさか初対面の人たちとみんなで山に登るなんてね! 険しい道と簡単な道があって、キレイに半分ずつ分かれて登っていく段取りのよさとか(笑)

スー ナイス、エグゼキューション!

堀井 分かれて登ったはずなのに「山頂に到着する時間が一緒だった」「これは奇跡!」って大喜びしてるんですよ! 帰りも二次会に参加するかどうか挙手してもらったら「初対面なのに全員が手を挙げたんです!」って感激していて(笑)

スー みんなでサイゼリヤ行ったんだっけ?

堀井 そうそう! こういう楽しい“おふざけ”ができる大人が増えて、たくさんいる世の中って素敵じゃないですか。しかも番組から生まれた場所で新しい交流がどんどん生まれているのだとしたら、本当に喜ばしいですよね!

スー美香コンビ、ラジオからポッドキャストへ

──次に話を少し前に戻して、お二人の出会いやポッドキャスト配信の経緯についてお聞かせください。お二人が出会った「ザ・トップ5」が2014年3月に終了後、毎週土曜の「ジェーン・スー 相談は踊る」(14年4月〜16年4月)が始まって。そのあと、平日帯番組の「生活は踊る」(16年4月〜20年9月)でお二人は久しぶりに再会されたんですかね?

スー そうですね。土曜日時代が空いて、「生活は踊る」の金曜でまた美香ちゃんとご一緒することになりました。

──その金曜がなくなるとき、スーさんから「堀井さんと自由にしゃべる場所を残して欲しい」と言われて美香さんはどのように感じましたか?

堀井 何よりもありがたかったです。私はTBSの社員でしたので何も言える立場になく、番組改編はもう「当たり前のこと」として自分で自分をどこかで納得させるところがあったので。こうして騒いでくれる人がいるだけで感謝でした。思えば「生活が踊る」の金曜が終わるって噂が立ち始めたくらいから、スーちゃんは私にポッドキャストってどういうものか説法し始めて。

スー 言い方、言い方!

堀井 そういうことが何回か続いて。いまでこそポッドキャストで配信している方はたくさんいるけれど、当時はまだそれほど盛り上がっていなかったんですよ。

スー アメリカでは「ポッドキャスター」という職業があって、「ポッドキャストで聞いたんだけど」みたいな話をみんながしている状況を見て、「これは日本にも来るんじゃないの?TBS」と思っていたんですけどね。

堀井 そうそう、スーちゃんから「ポッドキャストってこんなにすごいんだよ」って話をずっとされていました。一方で、プロデューサーも場所をつくってくれていて。所属アナウンサーは配信NGで、テレビ・ラジオ以外の番組に出ることはハードルが高かったんですけど……皆さんのご尽力でするっとやらせていただく運びになって。本当は騒ぎたい気持ちを押し殺しているときに、周りの方々がそうやって私がスーちゃんと話のできる場所を淡々とつくってくださったことへの感謝しかないですね。で、行ってみたらディレクターの中野(堅介)くんと放送作家の古川(耕)さんしかいない少人数制で、超アングラみたいな感じでした。

スー ちょっと(笑)! 手弁当って言おう、手弁当。

堀井 手弁当でしたけど、なんだかおもしろかった。何も規制がなくて、台本もペライチだけ渡されて、ラジオ番組の体裁としてかっちり定まっていないんだろうな、ってことがわかりました。それがめちゃくちゃ、よかったんですよね。

──スーさんは互助会本でも「堀井さんとは自由にしゃべった方がいい」とおっしゃっていました。美香さんのどんな点を指して、そう思われるのですか?

スー 美香ちゃんって「真面目界のいちばん不真面目な人」。その不真面目な部分を120%発揮してもらえるのが、フリートークだと思っていて。この人ね、まだ読んでいない台本を次から次へとゴミ箱へ放り投げるんですよ? 初めて遭遇したとき、もうびっくりしちゃって。以来ずっと「何をやってんだ、君は」ってツッコミ入れてます。

堀井 (笑っている)

スー 隣に誰か大人がいて止めないと、仕事に使う台本を捨ててしまうのは……ねえ、どうなの? それで読むところがわからなくて「あーっ!」って慌てていて、スタッフからサッと台本を手渡されてフォローされてるの。毎週「堀井さん、その台本まだ捨てちゃダメです!」って繰り返していて。「何をやってんだ、この人は本当に」って。

堀井 先に行きたいんですよ。その場を整理して、早く次に進みたいのかも。

スー 美香ちゃんって“せっかち”だよね。気持ちだけ急いて台本を捨てたのに、まだ現場は堀井さんの思考に追いついていないから大変になっちゃう。

堀井 日常生活も全部そう。机の上にあるものを、早く全部捨ててゼロにしたいんです。旦那のご祝儀もすぐに捨てちゃって……まだ中にお金が入ってるのに!

スー ひどいよね。なのに、この一連のやり取りをリスナーさんが喜んでくれるという幸せな空間。

バカ話をし続けて2年以上。これからも変わらず楽しく

スー 今日(2022年12月下旬)、Ep.117の収録したってことは……もう2年以上バカ話してるんだよ? すごくない?

堀井 この2年間、つまんなかったことが一度もないんですよ。毎回すごく楽しくて。

スー 美香ちゃん、もっとしゃべればいいのに。基本、聞きの体勢だから。

堀井 普段の関係性だってそうだもんね。ごはん行っても、スーちゃんが話して私が聞いてる。

スー 美香ちゃんはしゃべる気が全然なくて、こっち(私)に完全に投げている状態なのに、私が話していると「長ぇな」って顔するときあるからね。「あんたしゃべりなさいよ、じゃあ!」っていう(笑)。あれ、超ムカつく!

一同 (爆笑)

スー すぐ「長!」みたいな顔するんだもん。誰かがしゃべんないと進まないんだからね? 隙間を美香ちゃんも埋めてよ。

堀井 あるある(笑)。そういう視線を交わしながら、いつもしゃべってるね(笑)

──お二人の歴史が垣間見えました(笑)。互助会本のご編集やゲラのご確認作業を経て、お二人や番組の歴史を振り返ったいま、改めてお互いのことをどのように感じていらっしゃいますか?

スー (しばらく考えて)うーん……仕事仲間ですね。仕事する上で信用に足りる人だ、という思いが年々増しています。友人としてどこか旅行へ出たり遊んだりするのも超楽しい人だけど、仕事仲間としての信頼というか。物事への認識が完全に一致することはないんですが、「あんたがそれでよければいいんじゃない」って選択を尊重できる。

堀井 そうだね。イベントひとつやるにしても本を一冊つくるにしても、アプローチやトラブル解決方法が私とは全然違う。見ていて気持ちのよいやり方をするんですよ、スーちゃんって。私は長らく会社員をやってきて、いろんな先輩とご一緒してきましたけど……その中の誰とも似てない。

スー ありがとうございます。

堀井 “座長”としての能力がズバ抜けていて。ご本人は「若い子たちを育てよう」って気持ちはないかもしれないし、こうして目の前にいても後進の育成についてどう考えているかわからないんですけど、若い子たちに真正面から向き合っているんですよね。それがすごいな、って。結果、みんなスーちゃんを慕ってついていくもんね。彼女が周りによい影響を与える場面を、そばでたくさん見ています。先頭に立って旗を振るべき人なんだなって。

──その旗を目指して毎週金曜の配信を楽しみにしている互助会員として、最後に質問させてください。お二人はこれから「OVER THE SUN」をどうしていきたいですか?

スー 粛々と続けていくのみですね。

堀井 そうですね、これまでと変わらず。

スー 大きくしていくとか、精度を上げるとか、反対に規模を小さくするとか、そういうことは一切考えていません。ただ私たちが楽しければそれでいい、って感じですね。

堀井 でもね、私たちってがんばっちゃうんですよ。

スー そうなの、よくないよね〜!

堀井 「何とかアワード獲りたいよね」みたいな。そういう餌が来ると食いついてしまうタイプ(苦笑)

スー 何もなくやっていけることが、いちばんだと思うよ。我々がつまんなくなったら辞めるってことでいいんじゃないかしら?

──お二人が飽きてしまうその日まで、変わらず享受し続けたいと思います。ありがとうございました!