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故・赤染晶子さん、初のエッセー集「じゃむパンの日」 京都の街の息づかいが聞こえる55編を収録

赤染晶子さん

 「乙女の密告」で芥川賞を受賞し、2017年に42歳で亡くなった作家、赤染晶子(あかぞめあきこ)さんの初めてのエッセー集が出た。新聞や雑誌に掲載された55編を集めた『じゃむパンの日』(palmbooks)。生まれ育った京都の街の息づかいの中、おかしみをたたえた感性にノックアウトされる読者が続々。じゃむパンファン急増の冬となった。

 表題作の「じゃむパンの日」では、テナントビルで働くわたしが、資格教室のスタッフや看護師、インド人と様々に間違われる。困惑したわたしは、心の中で反撃する。「わたしは新妻です!」。え? その後の妄想の顛末(てんまつ)は……。

 1編1編がおかしく、いとおしい。登場人物はわたしや母親や祖父母、まわりのおばちゃん、おっちゃんたち。独り言のような短文でたたみかけ、絶妙な間合いがある。あれよあれよという間に京の路地裏のような赤染ワールドに引き込まれ、気づくとクスッ。肩の力が抜けている。

 版元は加藤木礼(かとうぎれい)さん(44)が作った「ひとり出版社」。加藤木さんは新潮社の編集者をしていたころから、赤染さんのエッセー集を作りたいと企画をあたためていた。昨年6月に退社し、自分がおもしろいと思う本を世に届けたいと11月に出版社「palmbooks」をスタート。1冊目はこれ、と迷わず決めていた。翻訳家でエッセイストの岸本佐知子さんとの交換日記も収めた。

 赤染さんの文章は切れ味がよく、思わず笑ってしまうユーモアにあふれる。「日常を描きながらも思わぬところに読者を連れていく、たぐいまれなる想像力。ふつうの暮らしを営む人たちを見つめる赤染さんのまなざしがあたたかくて、ほっと和らぐ読み心地を生んでいます」。加藤木さんは魅力をそう語る。

 12月の刊行から、「こんなにおもしろい作家だったとは」と話題を集め、1月末で4刷となる。増刷に汗を流しながら「本の原点の力を感じる。言葉のおもしろさ、魅力です」と加藤木さんは手応えを得ている。

 赤染さんは04年、文学界新人賞を受けた「初子さん」でデビュー。10年に芥川賞を受賞した「乙女の密告」は、外国語大学を舞台にドイツ語で「アンネの日記」の暗唱に情熱を注ぐ女子学生の姿を描いた。集団の中で「私であること」を考える重いテーマながら、スポ根漫画風でもある。

 初のノミネートで芥川賞を射止めた赤染さんは受賞当時、緊張でこわばりつつ、取材に答えてくれた。翌年、大阪本社版の本紙夕刊で1年にわたり、エッセーを4回、書いてもらった。タイトルは「赤染晶子の京小径(こみち)」。

 京都は寒いのではなく、冷える。底冷えの街で近所のおばちゃんをぬくめる祖母の作る足袋の話、京言葉で和尚さんをいう「おっさん」の話、路地裏のお好み焼き屋に息づく「イケズ」の話。鋭い観察眼をもって京都の人々を描くこれらも今回、収められた。

 赤染さん、エッセーを通じて再会できましたね。(河合真美江)=朝日新聞2023年1月25日