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黒川創さん「彼女のことを知っている」 妊娠・中絶・離婚・再婚…性について、等身大で向き合う小説

黒川創さん

 性を芯にすえた小説をいつか書きたいと思っていた。そう明かす黒川創さんの『彼女のことを知っている』(新潮社)は、1970年代から2020年代まで、時代と性に向き合う小説だ。

 京都のヒッピーたちの作った喫茶店で、小暮ミツオがアルバイトをしていたのは70年代。性の解放が叫ばれたころだった。15歳で年上の女性と出会い、その後同級生の恋人の妊娠と中絶を経験し、結婚と離婚、再婚を経て、年ごろの一人娘にセックスについて語り、人間関係を見つめる。

 フリーライターから作家になった小暮の設定はほぼ等身大の黒川さんだという。体験を色濃く映す小説だ。「身をずらさずに逃げずに、性の問題を書きたいと思った」

 黒川さんの仕事は評論からフィクションへとウィングを広げた。その根本の一つ、性的なテーマがなかなか手に負えなかった。

 「30代ぐらいだと自分がそのさなかにいて、どんな距離感で扱っていいのかつかめなかった。パン生地が手にねちゃねちゃついて、形にできない感じ」。そろそろやれるかと手についたのは、60代になったという年齢もあったと話す。

 小暮である「私」の歳月が行き来する4章のうち、海辺のキャンプの章では大学生の娘にさしで向かい合い、性的関係への考えを語る。

 「エッチなことは賛成だ。全般的に」と笑いながら、「交際相手に大切に扱われてほしい。人間として」と話す。セックスは相手を尊重することなのだという、まっすぐな父親の言葉が読み手の胸にも響く。

 黒川さん自身は小学生の娘がいる。「将来の仮説問答というか」と照れたように話すが、思いが伝わってくる。

 『カトリーヌ・ドヌーヴ全仕事』は小暮の企画案をタイトルにした、色合いの異なる章だ。映画人ドヌーヴの公私における半生を語り、性の自立について問いかける。「私は堕胎したことがある」という声明への署名(71年)、「言い寄る自由擁護」の声明(18年)。性の問題は社会の状況と密接につながることを違う角度から照らしている。

 フリーセックスがうたわれたころ、黒川さんは少年期から青年期を過ごした。その影響を受けながらも、そんなかけ声からこぼれ落ちたものを描きたかったという。みっともない、つじつまの合わない話を。

 「好きだから一緒にいたいと思うのに、心ならずも失敗することがある。そうやって迷惑をかけて、別れた相手の影響が一番大きかったりする」

 実生活でもとかく、ままならない性的関係。「落とし前はつけられなくても、それが何なのか考えることが大事なのではないか」

 黒川さんはさわやかな表情で言う。「やっと小説が書けたと思う。ここまではしごを上ってきた感じかな」=朝日新聞2023年2月22日掲載