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映画「ラブ・イン・ザ・ビッグシティ」キム・ゴウンさん、ノ・サンヒョンさんに聞く「自分らしく生きる」男女の絆

キム・ゴウンさん(左)とノ・サンヒョンさん=矢部志保撮影

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現実でもこういう友達がいたらいい

――本作は、ベストセラー連作小説『大都会の愛し方』の「ジェヒ」の章をイ・オニ監督により映画化されました。原作または脚本を読んだ感想から教えてください。

ノ・サンヒョン(以下「ノ」) 原作は一部だけを読みました。というのは、僕が演じたフンスという役は、原作では名前からして異なる設定になっていたので、できるだけ脚本に書かれている役に集中しようと思ったからです。脚本を読んだ時は、秘密を抱える彼の姿が率直に描かれていると感じましたし、全般的にストーリーがとても面白く、意味も深い。そして感動的な部分も多いと感じました。最後のあるシーンやその後に流れるナレーションについて、脚本を読んだ段階で涙してしまうこともあったほどです。

キム・ゴウン(以下「キム」) 私も、原作と今回の映画の内容は方向性が違う形で脚色されていると事前に聞いていたので、まず脚本から読みました。より集中して読み込んでいくと、脚本には2人のキャラクターや特徴が明確に描かれていて、脚本を読むだけで十分だと感じたんです。そして2人の関係性がとてもうらやましくなって、現実でもジェヒとフンスのような関係の中に自分も身を置きたい、こういう友達がいたらいいな、という気持ちになるストーリーでした。

「あなたらしさがなんで弱みなの?」

――ジェヒとフンスという役柄をどのように作っていきましたか。

 フンスという人物は、ゲイという特徴を持っているので、より詳しく情報を得るために、性的マイノリティーの方たちと実際にお会いして、いろいろな話をうかがいました。成長してきた過程で感じたもどかしさや恥ずかしさ、孤立しているという感覚について、より理解しようと務めました。

キム ジェヒという人物の性格はある程度脚本に書かれていたのですが、私が集中的に考えたのは、ジェヒは私たちと同じなんだ、ということ。誰でも経験する20代の不安定さを彼女も経験していますし、自分は何が好きなんだろう、自分はどんな人なんだろう、ということを知っていく過程にある。まさに青春の真っただ中にいる、という点を集中して演じていました。

 ジェヒは社会に第一歩を踏み出したことによって、たくさんの葛藤を抱えます。もともと自己肯定感が低い彼女が奮闘し、困難を乗り越えていき、自分の愛し方を見つけていく。映画を観てくださる方も、彼女の性格そのものを追うというよりも、私も不安定な頃があったな、と20代の頃の自分を思い起こすように共感していただけるようなところが、この作品のポイントになっているのではないかと。ジェヒがフンスに「あなたらしさがなんで弱みなの?」と言うセリフがあるのですが、この言葉は誰にでも通じるものだと思いました。

――個性の強さを持つ2人の「男女の絆」については、どのようにとらえて演じましたか?

 ジェヒとフンスにおいては、はっきりと男女の関係かと言われると、それは少しわからないところがあります。フンスは性的指向が他の人とは違っているので、2人はお互いを異性としてはとらえてはいなかったのではないかなと。でも2人の間には確固たる絆があって、それはお互いに未熟なところ、欠けているところをちゃんと理解し合うことができるので、人間的な愛情を感じている。そのきっかけがいくつもあったと思います。だからこそ、2人がしっかりとした友情を築くことができたのだととらえて演じました。

キム “男女の間に友情は芽生えるのか?”というのは、長い間の難題の一つでもありますよね。性的なアイデンティティーがまったく違うジェヒとフンスですが、私は人間と人間が、例えば性格や価値観などが合うのであれば、男女でもいい友達になれると思います。フンスはジェヒと性的なアイデンティティーが違ったからこそ、プレッシャーなく仲良くなれて。2人は、男女の絆というよりも、人と人が出会ったことによる絆が強かったのだととらえて演じました。

できる限り一緒に食事をした

――そんな絆の強い2人を演じるうえで、現場ではどんなコミュニケーションを取っていましたか。

 人見知りなので、最初はあまり話せませんでしたが、撮影に入る前に2人でいろいろな話をしたり、一緒に食事をしたり。あとは映画の撮影チームのみなさんとも一緒にクラブに行って楽しい時間を過ごして仲良くなりました。撮影の序盤では、ジェヒの家のセットで撮影することがたくさんあったのですが、その時に急速に仲良くなれたと思います。最初のシーンを撮った時に「キム・ゴウンさんとは気が合うな」と確信できた通り、ずっと気持ちよく撮影できました。

キム ジェヒの家での撮影シーンが映画でも大事な部分になっていたかと思います。その撮影ではやはり2人の息を合わせることがとても大事で、日本にも一緒にご飯を食べると仲良くなるという言葉があるかどうかわかりませんが、韓国では家族のことを「シック」と言って、漢字では「食口=食べる口」と書くんです。そのくらい、ご飯を一緒に食べることによって仲良くなれると言われているので、できる限り一緒に食事をするようにしました。

――そうして撮影された本作で、ノ・サンヒョンさんは青龍映画賞の新人俳優賞を受賞。キム・ゴウンさんは昨年、映画「破墓/パミョ」で百想芸術大賞の女性最優秀演技賞を受賞され、本作も同大賞で5部門にノミネートされました。賞の獲得について意識していましたか? 

 この作品で新人賞を獲れるなんて考えてもいませんでした。撮影の時は、本当に演技だけに集中しているので、賞についてはまったく意識していなかったです。

キム 賞をもらうかどうかはさておいて、その前の段階では、多くの人に作品を観てほしいという気持ちが大きいです。映画というのは大衆文化芸術なので、私たちがどんなにその作品に意味を込めたとしても、やはりみなさんに観てもらえないと意味がなくなってしまうので、まず多くの方に鑑賞してもらうことが大事。その次の段階に賞があると思っています。ですが、もちろん受賞できると嬉しいものですね。

今日の私が、私らしさ

――ジェヒとフンスを通してありのままの自分を肯定してくれる本作ですが、「自分らしさ」について信条のようなものはありますか?

 難しい質問ですね。自分らしさを常に探しているところだともいえますし、探しきれないのが僕だとも思います。はっきりとはわかりませんが、自分自身と対話をしていくこと、それが自分を知る助けになるのかなと。そして、いろいろな人たちと話すことによっても、自分を見つけていく基準がわかるようにもなると思います。

キム 私は「今日の私に集中しよう」と思っているんです。今日の私は何を望んでいるのか、どんな考えを持っているのか。常に“今”に集中して「今日もよく生きよう」と考える。なので、未来に対しての心配はしない。そうして今日を頑張って生きたら、また、今日が明日になる。つまりは、今日の私が、私らしさだと思います。

――ところで最近、気になった本はありますか?

 監督がくださった本の中で、仏教のさまざまな言葉が書かれている『超訳 ブッダの言葉 エッセンシャル版』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)という本を今は読んでいます。

キム 学生の頃は本当によく本を読んでいました。当時は本をたくさん読むともらえる賞があったんですが、常に本を読んでいたので、その賞をもらったことがあります。最近は出演作品の脚本を読むだけでも多くの時間を使うため、なかなか本を読む時間を捻出することが難しいのですが、本を読むことはいいことですよね。