東日本大震災。
あまりにもおおきなたくさんのかなしみがうまれてしまったあの日から、まもなく12年。
震災直後から毎月東北に通いながら、たくさんのかなしみ、くるしみ、そしてあたたかい光たちに触れました。
訪れるたびに「おかえり」と迎えてくれるおおきな家族が増えました。東北中が、いつのまにか帰る場所になっていました。
写真絵本『ただいま、おかえり。3・11からのあのこたち』(世界文化社)を作るにあたり、震災直後からの12年分の写真をすべて見返しました。
赤ちゃんだった子が中学生になっていました。1枚も写せなかった日もあったこと。一日中、ちいさなちいさな手を握っていた日のこと。さまざまな想(おも)いがめぐり、何度も何度も写真を入れかえました。
いってらっしゃいと送り出されたまま、ただいまを言えなかった子。おかえりと抱きしめることができなかったおかあさん。どんなに心を砕いてもその子やおかあさんの代わりになることはできないけれど、ただただ一緒にいさせてもらいました。
きのうという日があったこと、きょう笑っていられること、あしたまた逢(あ)えること、なにひとつあたりまえじゃなかった。
なにげない挨拶(あいさつ)や交わすことばが、伝えられるうちに声を想いを届けることが、いちにちいちにちを懸命に過ごすことがどれほど尊いものだったか、あらためて気付かせてくれたのは東北の地でした。
抱えきれないほどのかなしみもくるしみもひとつひとつだきしめながら過ごしてきた12年間。
そのなかから届けたいものがあります。
いま、そこにいてくれること。
いま、ここにいるから伝えられること。
これからをつくることができる、光のたまごたち。
13回忌をむかえる今年、あの日を知らないこどもたちにもあらためていのちの尊さ、まばゆさを伝えられたら、繋(つな)げていけたらと、精いっぱいの想いを込めてこの写真絵本を届けさせてください。=朝日新聞2023年3月8日