「哲学の方法」書評 精緻にして明晰な思考のために
ISBN: 9784000240659
発売⽇: 2023/01/19
サイズ: 19cm/183,16p
「哲学の方法」 [著]ティモシー・ウィリアムソン
「それってあなたの感想ですよね」。文系の学問に外部からそんな批判が向けられるのは珍しくはない。人文社会科学の内部にも、統計学の手法によるお墨付きがなければ、学問とは呼べないと説く立場がある。とくに哲学は、日常語では個人の人生観や信条も意味するから、この分野の営みを、主観的な思索とみなす人だっていることだろう。
哲学はサイエンスたりうる。これが本書の立場だ。「うまいやり方」をすれば、哲学は、「体系的、組織的な探究」という意味の科学であるというのだ。それは、最善の説明を与える理論を探る点で自然科学に近いが、アームチェアで思索をめぐらす点では数学に近い。原著は、オックスフォード大学出版局の、定評ある入門シリーズの一冊。筆致は軽やかで、翻訳も工夫があって読みやすい。
では、哲学における「科学的方法」とはどんなものか。それが本のテーマだ。
とはいえ、哲学が武器にできるのは「思考の力」だけで、奇抜な策はない。本書が語るのは、「常識から出発する」「議論する」「言葉を明確にする」「思考実験をする」等(など)のだれもが使う認知の方法を、いわば体系的・批判的に繰り返す方法だ。それは、人間のどんな能力も誤りを犯しうることを前提に、精緻(せいち)で明晰(めいせき)な思考を積み重ねるための手続きである。
精緻に議論する研究者には、慎重すぎる、ゲームに興じているだけじゃないかとの批判も寄せられるが、著者は、むしろ奔放で大胆な思索の論者に厳しい。明晰さを欠くがゆえに反駁(はんばく)されずに済む、「安易で気楽なやり方」というのだ。
「科学的方法」を掲げるこの本は、「分析的」と呼ばれる英米哲学の潮流に属している。哲学や政治哲学の学界には、かねてこれに批判的な潮流もあり、どんな方法で何をめざすかをめぐっては、学問内部に活発な議論がある。人文社会科学をなんでも「感想」とみなすのは、それ自体が実態をふまえない感想であろう。
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Timothy Williamson 1955年生まれ。哲学者、英オックスフォード大教授。著書に『テトラローグ』。