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ドゥマゴ文学賞・山崎ナオコーラさん×選考委員・俵万智さん対談「源氏物語、いま読む違和感も楽しんで」

山崎ナオコーラさん

 第33回Bunkamuraドゥマゴ文学賞(東急文化村主催)の受賞記念対談が10日、東京都内であった。「ミライの源氏物語」(淡交社)で受賞した作家・山崎ナオコーラさんと、選考委員の歌人・俵万智さんが古典や歌の楽しみ方を語り合った。

 同賞は、1人の選考委員が受賞作品を選ぶ。任期は1年。「ミライの源氏物語」は、紫式部の「源氏物語」を、ルッキズム、ロリコン、マザコンといったキーワードから読み解き、現代だからできる楽しみ方を提案するエッセーだ。

 山崎さんは、大学時代に卒業論文でも「源氏」を取り上げている。「物語を動かしているのは、実はあまり主体性のないヒロイン。私自身、10代の頃は人といっしょにいても全然しゃべれなかったので、受け身のヒロインでも物語を動かせることに心ひかれた」。受賞作については「『源氏物語』がいまの社会規範に反していると批判したいわけではなく、そこに違和感を持っちゃう自分も肯定しながら楽しんで、と言いたい」と語った。

俵万智さん

 俵さんは「私たちが平安時代に立ち返らなくても、いまの読み方で『源氏物語』を楽しめるのだと教えてもらった」と評した。高校の国語科教諭だった俵さんは、古典の授業に苦心していたという。「生徒たちは『ああこれでもう古典を読まなくてもすむ』と言って卒業していく。悔いが残りました。だから学校をやめてからは、恋愛に焦点をあてて読み解くといった、現場を離れたからこそできる方法で伝えてきました」

 「ミライの源氏物語」では、章ごとに「源氏物語」の一節が引用され、山崎さんによる現代語訳が続く。全訳にも挑戦したいが「作中にある和歌は訳せない」と吐露。俵さんは「歌の部分だけ別注してもらったらいくらでも考えたい」としながらも、「ぜひトライしてください。わたしがビシバシトレーニングしますので」と指導役を買って出た。

 山崎さんにとって、俵さんは子育ての先輩でもある。俵さんが「忙しいなかで、歌を作ることは潤いになる。作ることで、立ち止まって心の動きを観察する時間が生まれる」と語ると、山崎さんは「育児をしているのも文学の時間と思いたい」と話し、俵さんの短歌に触れた。《自分の時間ほしくないかと問われれば自分の時間をこの子と過ごす》(歌集「たんぽぽの日々」所収)。「いま子供が4歳と7歳なんですけど、砂場で遊んでいる時間も文学なのかもしれない。そう思えたら救われます」(田中瞳子)=朝日新聞2023年11月29日掲載