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「21世紀の金融政策」書評 中央銀行の歩みと現在 簡明に

評者: 有田哲文 / 朝⽇新聞掲載:2023年12月09日
21世紀の金融政策 大インフレからコロナ危機までの教訓 著者:高遠裕子 出版社:日経BP日本経済新聞出版 ジャンル:金融・通貨

ISBN: 9784296116270
発売⽇: 2023/10/20
サイズ: 22cm/545p

「21世紀の金融政策」 [著]ベン・S・バーナンキ

 中央銀行というのは考えてみれば不思議な存在だ。選挙で選ばれているわけでもないのに、金利の上げ下げで経済を動かし、人々の暮らしを左右する強大な権限を持つ。ノーベル賞経済学者にして、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)のトップを務めた著者は、こう説明する。米国の議会は金融政策をFRBに委ねてきた。その理由は「私が自宅の配管の修理をプロに依頼するのと同じ」。
 修理方法は詮索(せんさく)しないが、結果への説明責任は負ってもらう。中央銀行の独立性について簡にして要を得た記述であろう。本書には金融のややこしさを解きほぐす言葉が満ちている。
 1960年代から現在までのFRBの苦闘を描いたこの本の中で、とりわけ生々しいのが、著者が議長としてリーマン・ショック後の金融危機に立ち向かった経験だ。戦う手段は通常なら利下げだが、ゼロ%まで下げてしまい、弾薬が尽きた。他に手はないかと、国債などを大量に買い入れる量的金融緩和や、先々の低金利を約束するフォワード・ガイダンスなどに乗り出した。日本のバブル崩壊後に日銀が取った政策も大いに参考にしたという。
 異例の手段であるだけに、副作用が大きいのではないかとの意見がFRBの内からも外からも出た。疑心暗鬼になる市場、混乱する政治。読んでいて、経済の軟着陸をめざすコックピットの中にいるような気分になる。
 本の後段は理論編で、金融政策をめぐる最新の議論が一望できる。中央銀行はバブルを防げるのか。金融緩和は経済格差を広げないか。一つ一つに著者が見解を示していく。FRBの政策を擁護する記述も目立ち、読者は手前みその印象を受けるかもしれない。しかし自分への批判的な意見もきちんと記す姿勢は好感が持てる。大部ではあるが、読み通せば、金融や経済のニュースを見る目が変わるはずだ。
    ◇
Ben S. Bernanke 1953年生まれ。ブルッキングス研究所特別シニア・フェロー。2022年に銀行と金融危機に関する研究でノーベル経済学賞。