コメディーから時代劇まで幅広い作風で活躍する東村アキコの作品の中でも、『ひまわりっ~健一レジェンド~』や『かくかくしかじか』など著者の分身「林アキコ」(本名ではないらしい)を主人公にした半自伝シリーズは人気が高い。昨年その最新作となる『まるさんかくしかく』が「ビッグコミックオリジナル」(小学館)で始まり、11月30日に第1集が発売された。
今回の舞台は1985年の宮崎県宮崎市。小学4年生の林アキコ、通称アッコちゃんを中心に、個性豊かな4年4組のクラスメートが毎回さまざまな事件を引き起こす。いわば東村アキコ版の『ちびまる子ちゃん』と呼べそうな物語となっている。
この翌年、1986年から「りぼん」(集英社)で連載された『ちびまる子ちゃん』は、単行本累計3000万部を超えるさくらももこの代表作だ。1990年からアニメ化され、30年以上経った今なおフジテレビ系で毎週日曜日に放送されている。主人公は静岡県清水市(現・静岡市清水区)の小学3年生さくらももこ本人であり、小柄な彼女は「ちびまる子ちゃん」「まる子」と呼ばれている。「ハウスのたまごめん」「オイルショックによる紙不足」「ヨーヨーブーム」など、1974年ならではの世相も描かれる。
74年に小学3年生だったさくらももこ(65年生まれ)と同じく、団塊ジュニアの東村アキコ(75年生まれ)は85年に小学4年生だった。祖父母が同居する3世代家族だったさくら家に対し、林家は4人の核家族というのも80年代らしい。携帯電話やインターネットはなかったが、子どもたちの間ではファミコンが普及しており、「ドルアーガの塔」や「ゼビウス」といったゲームも登場する。
まだ30代半ばだったレジェンド父・健一も相変わらずのボケをかますが、中心となるのは学園生活のほう。『まるさんかくしかく』というタイトルは「十人十色の子どもたち」といった意味なのだろう。ツッコミが鋭い秀才の甲斐くん、ピュアな美少女エリカちゃん、いやしんごろ(食いしん坊)の斉藤くん、オカルト少女の図師さん、大学生のとき東京で暮らしたことが自慢のチャラい魚留先生など、どのキャラクターもしっかりと立っている。
『ちびまる子ちゃん』と比べると、郷土色を前面に出しているのも特徴だ。「“おぐら”のチキン南蛮」「青島海岸の冷やしパイン」「特産の柑橘類へべす」など、宮崎名物が次々と登場し、「説明しよう!!」から始まるナレーションで解説される。「穴がほがっちょったっつや? のさん目におうたね(穴が開いてたの? 気の毒だね)」など、東日本の人間にはさっぱり意味がわからないディープ宮崎弁も新鮮で面白い。
1985年といえば、プラザ合意によって円高が進み、地価と株価が急騰したバブル景気が始まった年とされる。「リーズナブルな観光地」になってしまった現代と違い、日本は世界に冠たる経済大国としてブイブイいわせていた。当時を知る昭和世代には、あの時代の勢いと宮崎の太陽のような明るさが懐かしい。
なお、12月にオープンしたエンタメサイト「ちゃおプラス」(小学館)では、女子児童向けにアレンジされた『まるさんかくしかく+』が連載される。やがて『ちびまる子ちゃん』のように、アニメ化されて大ブレークする日も来るかもしれない。