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〈オススメ〉最首悟「能力で人を分けなくなる日 いのちと価値のあいだ」 

 重度障害者の娘と暮らす87歳の生物学者が、10代の若者3人と4回にわたり語り合った。

 娘の生活は家族の全面的な介助が必要だが、最首さんはむしろ親のほうが娘に頼っていると話す。かつて競争社会でつっぱっていた己の弱さに気づかされた。周囲を信頼しきった娘の姿には、かなわないと感嘆。そんな半世紀近い時間の流れの中、人が常に「頼り、頼られている」存在であることを実感した、と。

 若者たちがそれぞれのペースで言葉を繰り出していく姿勢も好ましい。

 立ち止まることへの恐怖。世の中に合わせた「自分の輪郭」を引く嫌悪と決意。みんな違ってみんないい、で話が終わる寂しさ……。「違うけれども一緒にいる」、そんな他者との向き合いかたをともに考える、体温ある小さな一冊だ。(藤生京子)=朝日新聞2024年5月18日掲載