1. HOME
  2. ニュース
  3. 三島由紀夫賞・大田ステファニー歓人さん 山本周五郎賞・青崎有吾さん 講評と受賞会見を振り返る

三島由紀夫賞・大田ステファニー歓人さん 山本周五郎賞・青崎有吾さん 講評と受賞会見を振り返る

三島賞の大田ステファニー歓人さん(右)と、山本賞の青崎有吾さん

 第37回三島由紀夫賞と山本周五郎賞が16日に決まった。三島賞は大田ステファニー歓人さんの「みどりいせき」(集英社)、山本賞は青崎有吾さんの「地雷グリコ」(KADOKAWA)。選考委員の講評と、受賞記者会見での2人の声を振り返る。

 三島賞の「みどりいせき」は、不登校寸前の高校生である〈僕〉が、大麻がらみの闇バイトに引き込まれていく様子を描く。「フォグる」「キャパい」といった俗語をふんだんに使った独特の文体が特徴だ。選考委員の松家仁之さんは、「いまどきの文学に見えるかもしれないけれど、この作品には、20世紀にジェイムズ・ジョイスやウィリアム・フォークナーがしていた『意識の流れ』という手法が見られる。実はかなり骨太で、勢いで書いた文字はまったくないんじゃないか。そういう文体の確かさがある」と評価。「生きることのどうしようもないつらさ、よろこびを見事な文体で書き上げた。極めてすばらしい作品だ」と語った。

 大田さんは1995年生まれ。昨年本作ですばる文学賞を受賞し、デビューした。「だれにもわからなくてもいいと思って書いた。自分がやりたいのを、自分が楽しいものを書いたって感じっす」。会見には、アラブの伝統的なヘッドスカーフ、クーフィーヤを身につけて登壇。パレスチナ自治区ガザでの戦闘に心を痛めているとたびたび言及した。「自分のなかの問題意識に引っかかることじゃないと書けない。自分の人生を見つめることと小説を書くことがつながっているのかな。ガザのことも、もうじき(小説に)書けたら読んでみて下さいって感じっす」と話した。

 山本賞の「地雷グリコ」は高校生が文化祭の場所取りなどを賭けて勝負する物語。ジャンケンやポーカーなど広く知られた遊びにひねりを加えたゲームで頭脳戦を繰り広げる。選考委員の小川哲さんは「命を賭けるようなギャンブル漫画の枠組みを学園生活に落とし込んだところが新しい。高校生同士の感情のぶつけあいが端的に描かれ、青春小説としても優れている」と評した。

 青崎さんは91年生まれ。明治大学在学中にミステリーの新人賞を受け、2012年にデビューした。本作は本格ミステリ大賞と日本推理作家協会賞にも選ばれている。山本賞については「ノミネート自体が予想外だったので、驚きに驚きが重なっている。懐の広い賞だなと思います」と戸惑いながら、こう続けた。「この作品が文庫の書き下ろしだったり、ライトノベルレーベルで発表されていたりしたら、評価していただけただろうか。一人のエンターテインメント好きとして考えていかなければならない」(田中瞳子、野波健祐)=朝日新聞2024年5月22日掲載