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第28回手塚治虫文化賞 「プリニウス」で2度目の受賞のヤマザキマリさん「古代ローマの力が働きかけた」

 手塚治虫文化賞には、年間を通じて最も優れた作品に贈られる「マンガ大賞」、斬新な表現や画期的なテーマなど新しい才能の作者に贈られる「新生賞」、短編や4コマ、1コマ漫画などを対象に贈られる「短編賞」、マンガ文化の発展に貢献した個人や団体に贈られる「特別賞」があります。「第28回手塚治虫文化賞」の各受賞作品と受賞者は以下のとおりです。

「第28回手塚治虫文化賞」受賞作品と受賞者

■マンガ大賞

■新生賞

■短編賞

■特別賞

エンタメ性か芸術性・思想性か

 選考委員の一人、中条省平さんからは選考結果の報告がされ、大賞候補となった10作品中、選考委員議論の中でも早い段階で頭ひとつ飛び抜けていたのが『【推しの子】』と『プリニウス』だったといいます。

 『【推しの子】』は、主人公の青年が推していたアイドルの子どもに生まれ変わるという転生ものにして、芸能界の裏側を描いた作品。選考委員からは「圧倒的に面白い。よく練られたエンターテインメントである」(マンガ家・里中満智子さん)、「芸能における人間心理や活動の課題などがしっかりと描かれているうえに、極めてテンポがよい」(タレント・高橋みなみ)という称賛の声があがりました。

 一方の『プリニウス』は、古代ローマの博物学者・プリニウスの生涯を描いた歴史伝奇ロマン。「個性の強い2人のプロのマンガ家が合作という困難なやり方を芸術的に見事に成功させたこと、スケールの大きな異世界を構築するところに手塚治虫に通じる思想性を感じた」(トミヤマユキコさん)と2つの点が高く評価され、同賞の選考でしばしば出てくる、エンターテインメント性を重視するのか、それとも芸術性や思想性を重視するのかという論点が今回の選考でも焦点となりました。

 さまざまな議論を重ね、最終的には選考委員全員の承認をもって、『プリニウス』がマンガ大賞に。中条さんは「選考の対象に上がった作品いずれもが受賞に値するような質の高さを備えていました。これは現在の日本マンガの水準の高さをはっきりと示していると思います」と、日本のマンガ界を称えました。

大賞受賞は古代ローマの力と手塚治虫の“呪い”のおかげ!?

ヤマザキマリさん

 『テルマエ・ロマエ』で2010年に短編賞を受賞したヤマザキマリさんは、再び古代ローマを舞台にした作品での受賞に「古代ローマの力が何かしら私に働きかけている」と話し、会場の笑いを誘いました。受賞作の『プリニウス』については、「プリニウスという博物学者そのものも一つの博物誌の対象として描こうと思いました。そしてネロという皇帝と比較させることによって、人類という宿命のもと地球に生まれてきた、その生き方、そういったものを存分に描けた気がしています」とコメント。こうした作品が描けたのは「手塚治虫さんや水木しげるさん、そして藤子不二雄さんの作品を読んできたおかげ。マンガというスキルを身につけていたから」と語りました。

とり・みきさん

 一方、とり・みきさんは、手塚作品との出会いは小学校に上がる前に読んだ「大洪水時代」と「太平洋X點(ポイント)」だったと振り返り、「ギャグマンガ家として一番影響を受けたのは手塚治虫さん。楽屋落ち的な、メタ的なギャグ、物語自体をちょっと外側から見るようなギャグに感化されました」と話しました。しかも、マンガ家になるきっかけとなった少年誌の新人賞の選考委員にも手塚治虫がいたのだとか。「今こうしてここに立っていることを考えると、幼稚園時代から“呪い”をかけられているようなもので、ものすごく感慨深いです」と、ブラック・ジョークで受賞の挨拶を締めくくりました。

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画力に振り切って、職人の世界を描いた

 新生賞を受賞した坂上暁仁さんは、「手塚治虫さんに憧れてマンガを描き始めたので、この度の受賞は子どもの頃の夢が叶えられたようでとてもうれしいです」と笑顔で挨拶。江戸職人の技に込めた思いを描いた『神田ごくら町職人ばなし』は、リイド社の担当編集者から「画力に振り切った作品を描いてみたらどうか」と提案されて生まれた作品だと明かしました。その結果、「桶屋がただ桶を作るだけの話ができました」と笑う一方、職人たちへの取材を通して「ふつうの人が目をやらないところに創意工夫をしていて、そのこだわりが個人の感性からくるものもあれば伝統を受け継ぐという意志からくるものもあると感じました」と、職人への敬意をあらわにしました。「前金沢市長の『伝統もかつては革新からきている』という言葉がとても好きで、いま職人のなり手はとても減っているという話をよく聞くのですが、もし自分の作品で少しでも職人の世界の魅力をエンターテインメントとして描くことができ、興味を持っていただければ大変幸甚です」

坂上暁仁さん

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「好きなこと」だから、これからも描き続けたい

 『ツユクサナツコの一生』で短編賞を受賞した益田ミリさんは、「デビューして間もない頃、将来、何か賞をもらうことになったら、人前でスピーチがあるかもしれないと心配になり、スピーチ教室に申し込んだことがあります」と、突然の告白で会場を笑わせました。ところが、説明会で毎週1分間スピーチがあると言われて挫折したといいます。「こういうところは自分が描くマンガの主人公たちに似ている気がします」と益田さん。子どものころは空想ばかりしていて、勉強ができてドッジボールが得意な「なりたい女の子」を描いていたと振り返ります。『リボンの騎士』の主人公・サファイヤ姫にも憧れていたのだそう。

 「絵を描いているときは、深いところにある自分だけの世界に没頭することができました。今でも原稿に向かっているとき、子ども時代に潜っていた、あの楽しい場所を思い出すことがあります。『ツユクサナツコの一生』はマンガ家を目指す若者の物語です。主人公のセリフに『自分が好きや思うことは一生死ぬまで自分だけのもんや』というのがあります。私も好きなことを続けていられる今に感謝し、これからも描き続けてまいります」

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オリジナル作品にこだわって40年、目標は100年

記念撮影に臨む(左から)中村史郎・朝日新聞社長とコミティア実行委員会の吉田雄平代表、中村公彦会長

 特別賞のコミティア実行委員会からは、中村公彦会長と吉田雄平代表が登壇しました。コミティアはオリジナル作品限定の同人誌即売会。中村会長は40年前に作品発表の場を求めてコミティアを立ち上げたことを思い返し、「思いもつかない現実にぶつかって右往左往していたことが昨日のようです。それでも決して止めようと思わなかったのは、そこから生まれてくるマンガが本当に面白く、それが自分たちのマンガであると確信できたから。描く人へ、読む人へ、ここにこんな面白いマンガがあるよと伝えたかったんです」と、コミティアを続けてきた原動力について語りました。

 一昨年に代表の座を継いだ吉田代表は、コミティアなどの同人誌即売会のルーツはかつて虫プロダクションが発行し、『火の鳥』が連載されていた雑誌「COM」の読者交流コーナーにあったと話し、「代表というバトンを受け継いでプレッシャーを感じてはいますが、今回の受賞で手塚先生に勇気をもらったような心強い気持ちでいます。目標としては100年以上続くイベント。これまでの40年も一歩一歩積み重ねていった先にこうした賞をいただけた結果がある。今後も着実にイベントを開催していき、創作活動をする方々に発表の場を提供し続けていきたいと思います」と決意を述べました。

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