「岡義達著作集」書評 戦後政治の「楽観的」さ醸し出す
ISBN: 9784910590219
発売⽇: 2024/05/24
サイズ: 3×21cm/336p
「岡義達著作集」 [著]岡義達
『政治』をテーマとする本は珍しい。難解をもって1970年代から80年代において知られた岡義達の『政治』が、ほかの著作とともに1冊の「著作集」として編まれた。学生時代に歯のたたなかった岡さんの『政治』との半世紀ぶりの再会である。
岡さんの抽象化レベルを正攻法をもって理解しようと考えると、魔のラビリンスに入り込み、到底抜け出せない。まずは岡さんが繰り返し見せる「言葉のかけ合い」の世界を注視したい。
「役割の固定とみあい、役割の転倒は固定を保障する」「ここで問題になるのは、人のあり方であって、なし方ではない」「例外は――正確にはその都度の例外は、むしろ原則をつよめるであろう」
あたかも反対に解しうる言葉をあえて組み合わせて、常に政治の動く様を語ってやまない。だが反語的表現の様々な展開を、うっかりと深く考えもせずのみ込んでしまうと、『政治』はいつの間にやら遠くかなたに行ってしまう。
かけ合いに引っ張られるのではなく、岡さん自身が具体の政治をもって説明しているように、そこに自らの身近な政治事象を重ねてみることだ。そうすると「政党」「貧困問題」「状況規定」など、岡さんの『政治』との関係で自らの問題を解き明かすことができる。
私は制度化、伝統化、状況化の三つの類型を自在に論じた第4章をまず読み、そのさらなる展開を好む場合に後半部を、いやその前提となるあり方を探る場合に前半部を読むと、得るものがあるように思う。また第Ⅱ部の論文集と第Ⅲ部の書評集は、岡さんの『政治』の骨格部分を成す成果として読むことができる。
岡さんの『政治』は、民主政に一番の重きを置きながら、戦後政治と政治学がもつ楽観的な雰囲気を醸し出している。今の現実政治ではあり得ない、予定調和的発展を進みゆく戦後の時代性がそこに描き出されている。
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おか・よしさと 1921年生まれ。64年から東京大法学部教授、82年から大東文化大法学部教授を務める。99年死去。