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有栖川有栖さん「日本扇の謎」 火村の謎解きは「本格ミステリーの幅を見せる場」

有栖川有栖さん

 作家デビュー35周年を迎えた有栖川有栖(ありすがわありす)さんの長編ミステリー「日本扇の謎」(講談社ノベルス)が刊行された。臨床犯罪学者・火村英生と推理作家・有栖川有栖のコンビが事件にあたる「作家アリス」ものの最新刊で、30周年を迎えた「国名シリーズ」の11作目でもある。「日本」を冠した題名にニヤリとするファンも多いはずだ。

 京都・舞鶴の海岸で見つかった青年は記憶を失っていた。富士山らしき絵が描かれた一本の扇だけを持って……。そんな魅力的な状況から始まる物語は、彼の身元が京都市内の日本画家の屋敷に住む一族の、行方不明になっていた次男とわかったところから動き始める。

 敬愛する推理作家エラリー・クイーンにならった国名シリーズは1994年の「ロシア紅茶の謎」に始まる。クイーンが使わなかった国名を冠してきたが、本作の題名は、かつてクイーンの作品名として日本に誤って伝わった「The Japanese Fan Mystery」に基づいている。

 「10作を書き終えて、第2シーズンを始める気持ちで日本を採用したのはいいのですが、扇をどうするねんと。トリックに使おうとしても、せいぜい掌編にしかならないアイデアしか浮かばない。なんとか扇をからませようと、手探りで書き始めたんです」

 6年8カ月ぶりに実家への帰還を果たした青年だったが、彼の様子を見に来た古なじみの女性画商が密室状態の離れで他殺体となって見つかる。事件の発覚と同時に青年もまた扇と共に姿を消し、捜査陣は疑念を抱く。

 次々と明らかになる新事実の前に、事件の様相は変わり続ける。犯行方法も動機もあいまいななか、探偵役の火村は針に糸を通すようなロジックで、こうでしかありえない犯人にたどりつく。読者は周到にちりばめられた手がかりの数々に舌を巻くはずだ。

 「なんとか最後につながったという感じです。昔は設計図をきっちり作らないと書けないと思っていたけれど、とりあえず書き始めても、悩んでいるうちに、物語がどうなりたがってるのかという声が聞こえるようになった。長年やっている人間の図太さかもしれないですね」

 35年、ずっとミステリーを書いてきた。なかでも「作家アリス」ものは92年の「46番目の密室」以降、長編とオリジナル短編集を併せて30冊近くに及ぶ。8出版社をまたいで活躍する火村だが、講談社ノベルスで出続けている「国名シリーズ」と他を分かつものはなんなのだろう。

 「火村を他社さんで出すときは何らかのテーマを決めますが、国名シリーズはコンセプトなし! 落語だけでなく、手品も腹話術も漫談も出てくる演芸場のようなものでしょうか。密室トリックあり、アリバイ崩しあり、倒叙ものもあれば、日常の謎もある。バラエティーを重視して、本格ミステリーの幅を見せる場なんです」

 大震災が起き、コロナ禍に見舞われ、電話がスマホになっても、火村とアリスは30代前半で年を取らないまま、現代を生き続けている。

 「サザエさんみたいなもんですけど、映像作品は役者や声優が変わってしまう。小説ならば時代の変化を受けつつも、変わらぬまま現在に居続けさせられる。自分が憧れてきた名探偵同様、火村にはずっと、謎に立ち向かってもらいます」(野波健祐)=朝日新聞2024年9月11日掲載