「未整理な人類」書評 トンチンカンさと、せつなさと
ISBN: 9784910790190
発売⽇: 2024/09/27
サイズ: 12.8×18.8cm/240p
「未整理な人類」 [著]インベカヲリ☆
インベさんはなんだか理解し難い犯罪に心惹(ひ)かれる。地蔵一体が誘拐された事件。いや、それはまさに誘拐で、「お地蔵さんは預かった。返してほしければ、五百円玉六百枚をこの地図の場所に埋めておけ」とのメモが残されていたという。あるいは地蔵を盗んだまた別の男。その理由が「寂しくて、一緒にいたかった」。なんかこう、馬鹿で済まされない何かを感じませんか? いや、馬鹿なんだけどね。男子トイレの小便器の底にある蓋(ふた)が計三七枚盗まれたとか。まったく分からないのだが、まったく分からないわけでもない。インベさんも私もこんなことしやしないけど、これと根っこでつながるものを内に持っているように感じるのだ。我とわが身から形にならないものがぶにゅ、じゅくっと、はみ出てくる感じ。
というわけで、本書はそんなまなざしで世の中のぶにゅ、じゅくっとはみ出たものを捉えたエッセイ集である。ある種の人はこういうものを読むと、むしろほっとできるんじゃないだろうか。少なくとも私はそうだ。
チャットGPTについての彼女のコメントは、いままで見た意見の中で私には一番なるほどと思えるものだった。もっともらしいことばかり言う人や大人びた読書感想文を書いた子どもが「チャットGPTみたいでつまらない」と言われるようになる。これは素晴らしいことに違いない。そしてインベさんは、「チャットGPTの登場で、人間は堂々とトンチンカンになれるのではないかという希望を私は持っているのである」と言う。
だけど、インベさんが見つめる世の中のトンチンカンは、どこかせつなさを伴っている。それは圧し潰されそうになっているものの声なのだ。
本書の最後近くにある文を引用して書評を閉じよう。「ちなみに、去年二〇二三年の年収は、過去最低の一〇〇万円である。わっはっは。」本書の重版を切にお祈りいたします。
◇
1980年生まれ。写真家・ノンフィクション作家。著書に『「死刑になりたくて、他人を殺しました」 無差別殺傷犯の論理』など。