ISBN: 9784763421272
発売⽇: 2024/08/16
サイズ: 1.8×18.8cm/304p
「〈日本学術会議問題〉とは何か」 [著]小森田秋夫
日本学術会議は専門知識にもとづく政府への助言や研究交流・学術振興を担うアカデミー組織である。だが現在、第2次世界大戦後最大の危機を迎えている。
法学者である著者は、2020年に起きた学術会議の会員任命拒否事件の「予兆」ともいえる様々な出来事を目撃してきた「当事者」でもあった。その立場から、なぜ今起きていることが重大な問題であるのかを、日本の法律と歴史についての豊富な知識と共に緻密(ちみつ)かつ詳細に論じている。
国際的にもアカデミーは独立性が重視される。学術会議の場合、法的に国の「特別の機関」と位置付けられ、公正取引委員会同様に政権から独立した立場を確保してきた。ゆえに政府が会員人事に介入した任命拒否問題も問題視されたのである。だが、政府は拒否を撤回しないばかりか急に学術会議の改革を要求し始めた上、政府や産業界の関与を強める形で法人化しようとしている。
本書は学術会議と関わりを持つ省庁や政府機関の織りなす生態系を歴史的経緯と共に俯瞰(ふかん)する内容ともなっている。とりわけ、科学技術・イノベーション政策の「司令塔」として存在感を増す総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)との関係についてここまで包括的に言及した書籍は珍しい。
著者の分析からは、学術会議の急速な改革を目指す政府の主張における体系性と明晰(めいせき)性の欠如が浮かび上がる。たとえばそれは科学とアカデミーが「人類」に資するとしつつも、学術会議を「国民」に資するよう作り替えよと明確な理由を示さずに主張している。しかも旧安倍派を含む自民党のプロジェクトチームに端を発する内容が、その提案の基調となり続けている。
私の知る限り、過去に全体主義化した政府の多くは市民の自由を奪う前にアカデミーの人事と運営の掌握を行った。本書の警告が多くの人に届くことを願う。
◇
こもりだ・あきお 東京大、神奈川大名誉教授(比較法学)。元日本学術会議会員・第一部長。著書に『体制転換と法』など。