ISBN: 9784845921072
発売⽇: 2024/11/26
サイズ: 18.8×3.7cm/568p
「女の子のための西洋哲学入門」 [著]メリッサ・M・シュー、キンバリー・K・ガーチャー
なぜ哲学をやるのか。「楽しいから」というのが本音だが、この本を読んでいて思い出した。そうだ、不愉快だからだ。
哲学は、当たり前と思っていることに揺さぶりをかけ、亀裂を生み、ときに突き崩していく。私自身は、実在とか心とか他者といった問題に答えようとしてうまく答えきれず、その悔しさが哲学の原動力になってきた。しかし哲学の視野はもっとはるかに広い。数えきれないほどの問題に軋(きし)む社会の中で生きている私たちは、無自覚の内に多くの見方、考え方を当然のものとしている。哲学はそんな私たちを安定した場所からずり落とし、不安定にさせる。常識が常識でなくなり、分かっていたつもりのことが分からなくなる。実に不愉快きわまりない。その意味で、この本はけっこう不愉快な本である。
二十人の女性哲学者たちがそれぞれ一本ずつ、とくに十八歳から二十歳ぐらいの女性を念頭において、哲学のさまざまな領域へと招待状を出している。それを十四人の女性研究者が翻訳した。そのこと自体が、本書が発する一つのメッセージになっている。内容もいきおい、フェミニズム系のものが多く、そうでないものも多かれ少なかれ、フェミニズム色が感じられる。私は、正直に言って、声高に何ごとかを主張するのはどうも苦手だし、なんだか説教臭いのも好きではない。でも、読んでいるうちに気づかされた。私自身の言葉遣い、考え方、ふるまい方に、固定された前提や枠組がある。それを自覚して、立ち止まり、改めて検討すること。ひとつ、ひとつ、細やかで感度の高いアンテナをもって自分を見つめ直す。たとえそれが不愉快であったとしても。いや、不愉快だからこそ。
いったんページを開いたら、本書のタイトルから「女の子のための」と「西洋」をとってしまってよいだろう。古稀(こき)を迎えた年寄りの男にとっても、ちゃんとした哲学入門になる。
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Melissa M. Shew 米マーケット大客員助教。Kimberly K. Garchar 同ノースイースト・オハイオ医科大准教授。