児童文学研究者・猪熊葉子さんを悼む「良いもの美しいもの、何でも分かち合おうとしてくれた」

「一緒にいると、心から安らげる人だった」。昨年11月に96歳で亡くなった児童文学研究者・翻訳家の猪熊葉子さん=写真=について、めいの金子冬実さんはそう振り返る。
歌人・葛原妙子さんの長女として生まれた猪熊さん。1957年、英オックスフォード大に留学。「指輪物語」の作者J.R.R.トールキンに師事したのち、様々な児童作品を翻訳した。
金子さんも、幼少期から猪熊さんが訳した本に親しんだ。「伯母の文章は温かくてユーモアがあり、せせらぎのように自然と流れる感じがした」
2023年に金子さんがエッセー集「まぼろしの枇杷(びわ)の葉蔭(はかげ)で 祖母、葛原妙子の思い出」(書肆侃侃房〈しょしかんかんぼう〉)を刊行すると、猪熊さんはわがことのように喜んだ。ともに葛原さんの思い出を語り合い、大切な時間を過ごした。「良いもの美しいものを、何でも分かち合おうとしてくれた」
猪熊さんの意欲は、最後まで衰えなかった。94歳で高齢者施設に入った際も「色々と観察して『施設と私』というエッセーを書くつもり」と、金子さんにほほえんだ。
このところ昔の童謡などが思い出されるけれど、それを懐かしいとは思わない――。亡くなる3カ月前、猪熊さんから来たLINEのメッセージには、そんな思いがつづられていたという。=朝日新聞1月25日掲載