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熊倉献「少し長めの一瞬」 SF的設定を軽妙に切なく描く

『少し長めの一瞬』 熊倉献(こん)〈著〉 東京創元社 990円

 普通って何だろう。本作が投げかける問いのひとつはそれだ。前作『ブランクスペース』に続き、“普通”じゃない存在=マイノリティの生きづらさや生き抜くための工夫がSF的設定で鮮やかに描かれる。奇妙な宿命の家に生まれた男が普通の人生をめざす「いさなとり」、体に各種動物の部位を持つ者たちによる「鵺(ぬえ)の記録」、左利きの反抗劇「左利きの帝国」などはその好例。腕が4本あるという友達の彼氏のために特製の服を縫う話の主人公の思慮深さと鷹揚(おうよう)さも素晴らしい。

 日常に紛れ込む不思議、常識のちょっと外側にあるものを、軽妙な筆致でそっと差し出す。雪山の怪物との出会い、火星人と魔女の戦争、死後の体を欲しがる妖怪との約束が美しくも切ない愛の物語になり、表題作では40億年にわたるカップルの奇縁が綴(つづ)られる。しかもそれらがほぼ16ページで完結するのだから、星新一もびっくりだ。

 伸びやかな描線に巧みな構図やコマ割り。全編切り絵だったり漢字の形をネタにしたりのマンガならではの表現にも目を奪われる。奇想天外、才気煥発(かんぱつ)、融通無碍(むげ)の16編。人間同士の争いが絶えず、ままならないことの多い世の中で、心が洗われるというか“脳が洗われる”感覚に酔いしれる。=朝日新聞2026年10月3日掲載