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「埼玉マンション物語」書評 購入者の困難をリアルに描く

評者: 美村里江 / 朝⽇新聞掲載:2026年10月24日
埼玉マンション物語 著者:篠田 節子 出版社:光文社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784334110574
発売⽇: 2026/07/23
サイズ: 19.4×1.8cm/288p

「埼玉マンション物語」 [著]篠田節子

 長期金利の上昇で、マンションの駆け込み購入を考えている方も増えているでしょうか。
 覚悟の三十年ローンで購入したマンションの隣室で自殺騒動、そこへさらに不穏な入居者が続き……。管理人の不在を狙ったひったくり犯の襲撃を受け……。管理組合の会合での余計な一言から望まぬ理事長になってしまう……。小さな苦情だけでなく、マンション内ポルノ撮影への対処から手抜き工事疑惑への発展、ついには施工業者や販売会社と対決へ……。
 マンション購入者の多様な困難がリアルに描かれ、人生の複雑な苦味が味わえます。しかし、主人公香織の心の声が少々粗暴なことでふつふつと可笑(おか)しみもあり、何気ない人物の言動にじわりと心が温まり、読後は爽やかさが広がりました。これだけのトラブルを具(つぶさ)に描きつつ、マンション購入もいいな、と思わせるのはお見事です。
 役者としては「マンション内の事情通清掃員タケコさん」の矍鑠(かくしゃく)とした様子を演じてみたいと感じました。篠田作品の人物造形にはいつも魅了されます。