本書に登場するのは、パートナーと同棲(どうせい)中の小暮華、ハイスペック彼氏との結婚のために、人生を全振りしている野々村花織、夫の浮気で離婚した佐々木一葉、社内恋愛の彼女と結婚間近の佐々木律、年下のレストランオーナーと、彼の妻公認で不倫関係にある、シェフの花江祥子だ。
収録されている5編は、どれも長編にもなり得るもので、まぁ、刺さる、刺さる。地方出で一流企業に勤めるアラフォーの華が、パートナーの樹(マンションの更新料を節約するため、華の部屋に転がり込んできた)に抱くモヤッとした想(おも)い。派遣先で出会った東京の実家暮らしの彼氏と、なんとか結婚までこぎつけたい花織(実家は九州)の、涙ぐましいまでの努力。
離婚後、地元に戻り、父が営む書店をブックカフェに改装して、新たな人生を歩み始めた一葉が、元夫から受けるご無理ご無体(ひどいんですよ、これがまた。一葉、離婚して正解だぞ)。結婚相手は彼女(朱里)しかいないとは思うものの、ことあるごとに、女性を搾取し続けてきた男性、という構図への怒りをぶつけられ、疲弊していく律。オーナーシェフの片腕として、ミシュランの二つ星獲得に貢献し、公私ともに支えてきた祥子が、どうしても許せなかったこと。
凪良さんの巧みさは、5編の連動の手法はもちろんだが、それぞれの登場人物たちにべったりと寄り添わないことにある。絶妙に距離をとって描くことで、たとえば華と樹VS.華の家族、たとえば朱里VS.律、というような対立関係に落とし込まないのだ。そこにあるのは、人間関係ってそんなに単純なものではないよね、という凪良さんの視座だ。だからこそ、読み手がそれぞれの物語に共鳴できる余地が生まれている。
読後、タイトルの余韻が、じんわりと深い。
=朝日新聞2026年10月24日掲載
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講談社・2090円。26年5月刊、5刷15万8千部。同年上半期の直木賞候補。「『結婚』についてのままならなさを抱える人に刺さる話が満載、との口コミが広がった。女性読者が多いが、若い男性にも読まれているのが新鮮」と担当編集者。