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「病は言葉から」書評 否定的なことを予期しただけで

評者: 植原亮 / 朝⽇新聞掲載:2026年11月07日
病は言葉から:脳はなぜ情報を「毒」に変えてしまうのか? 著者:マイケル・H・バーンスタイン 出版社:白揚社 ジャンル:人文・思想

ISBN: 9784826902816
発売⽇: 2026/08/04
サイズ: 2.1×18.8cm/288p

「病は言葉から」 [編著]マイケル・H・バーンスタイン、シャーロット・ブリーズ、コシマ・ロッハー、ウォルター・A・ブラウン

 「副作用でお腹(なか)がゆるくなることあるんですよ」。その言葉を聞いたせいで、薬を飲んだら本当にお腹を壊してしまう。これがノセボ効果である。よく知られているプラセボ効果とは反対に、否定的なことを予期しただけで、実際に体に悪影響が出てしまうのだ。
 と、訳知り顔で書いたけれど、私がこの不思議な現象のことを知ったのはごく最近にすぎない。もっと知りたいと思っていたところ、ちょうどいいタイミングで本書が出てくれた。臨床的な事例の紹介や発生メカニズムの解説がそれ自体で興味深いのは期待通りだ。しかし、本書の意義はそんな予期を超えたところにある。そのひとつが、ノセボ効果が様々な社会的課題を突きつけることを明らかにしている点だ。
 最も規模が大きいのは、コロナ禍のようなパンデミック時に、ワクチン接種に伴う副反応の情報をどう扱うかだ。メディアの報道はジレンマを抱える。感染症対策に関する有益な情報が多くの人に届く一方で、同時に副反応への注目も促し、結果的にノセボ効果を広く生み出す可能性が高まるからである。
 また、個々の医師と患者のコミュニケーションの場面でも、従来にない繊細な対応が求められることになる。医師が患者の自律性を尊重し、治療に伴う副作用についても本人によく理解してもらおうと努めるほど、予期によりノセボ効果が大きく出てしまうかもしれない。ではどう伝えればいいのか? インフォームドコンセントをめぐる生命倫理学上の新たな問題が浮かび上がってくる。
 単純に知的好奇心をそそる話題も少なくない。呪術や魔術が信じられている社会では、それらがノセボ効果として実際に効力をもつかもしれない、という文化面での考察。いまだ輪郭不鮮明なこの現象について、哲学の観点から概念整理する試み。実践的な議論にとどまらず、こうした予期せぬ広がりを味わえるのも本書の大きな魅力だ。
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Michael H. Bernstein/Charlotte Blease/Cosima Locher/Walter A. Brown 他に15人の研究者らが執筆。
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寺町朋子訳